「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書発表へ
私も参画させていただいておりました「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書がついに発表されます。
当初1月からの3ケ月でまとめる予定だった研究会もコロナ禍の影響で何度か会合時期がずれ込み、やっと9月で発表にたどりつきました。事務局やとりまとめを行ったボストンコンサルティングそして座長の伊藤邦雄一橋大学名誉教授と研究会委員のみなさん大変ご苦労さまでした。
まだ経産省のサイトには報告書の発表は9月29日の8:00時点で確認できていませんが、六回の研究会の議事録や資料は公表されていますので大方の流れはそれらの資料で理解していただけると思います。もっとも要約されているのがタイトルバックに使った「人事戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素」です。
当初環境変化の要因に含まれていなかったアフターコロナの新常態も報告書には盛り込まれましたが、新型コロナの影響はむしろパラダイムシフトを加速する方向を変えることは無い、というのが研究会委員の大方の見方でした。
もちろん短期的には経済への影響から女性、外国人、中高年といった人材の多様化は停滞することになるかもしれませんが、中長期に見て「個の自律・活性化」や「ジョブ型の推進」といった流れは止まることは無いでしょう。
今回の研究会の特徴はその委員の多様性にあります。企業で戦略人事に関わる実務家のみならず、企業へ投資する立場である機関投資家の有識者が参画することで、座長が意識された「経営陣が将来に向けてどのように人材戦略を構築していくべきか。その中で取締役会が果たすべき役割は何か。そして機関投資家との対話をどのように進めて行くのか。」についてまとめることができたと思います。
私が同研究会で意識して発言したのは、日本企業がガラパゴス化しないようにグローバルな視点を意識すること、そして多様な個人といった際に正規社員のみならずフリーランスやギグワーカーといった新しい雇用形態の人たちの活用が企業文化に及ぼす影響を強調した点です。
日本のダイバーシティはとかく女性活用にフォーカスされがちです。もちろん現状世界と比べて大きく後れをとっているのは事実ですので、何とかより大きなモーメンタムを生んでいく必要がある訳ですが、そういった目に見える多様性以外にも幅広い事業での経験や複数の専門性などの多様性こそ今後持続的な価値を生む源泉として注目していくべきものだと思っています。
まだまだ日本企業の人事の視点は正規社員が中心となっていますが、デジタル化が進み、競争の激しい分野での専門性を持った人材確保が簡単ではない現状では、フリーランスやギガワーカーといった新しい雇用形態の人たちに依存せざるをえず、彼らのエンゲージメントを考える中では「薄く長い」従業員経験では無く「深く短い」従業員経験を意識する必要があり、これまでの人事施策への変革を迫ることになります。
さらにこういった多様な人材と既存の正規社員とが現場で一緒に働くことで企業文化は変容していきます。それは「個の自律」がより一層進む原動力になることでしょう。
残念なら現時点で日本企業のサステナビリティ・CSRレポートで上記の視点やKPIを明確にしたものは未だ目にしていませんので今回の報告書の提言が日本企業の視点を変えるのに貢献することを強く願います。
議論の中で興味深かったのは、人事実務家と機関投資家の視点の違いです。どんなに人事実務家として大切な施策であっても、企業価値に目に見えて結びつかないのであれば機関投資家は興味を示しません。
一方今回の研究会での対話を通じて機関投資家の方々も人事実務家の視点やその施策の狙いが理解できるようになった部分も多々あったと思います。
本報告書にあるように、企業トップの一員としてCHROの立場にある人事実務家は機関投資家との積極的な対話を通じて、自らの立案する施策がいかに企業価値創造に結び付くのか、しっかりとコミュニケーションをとるように心がけていく必要があるでしょう。
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