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OKRとMBOは何が違うのか?

今一緒にお仕事をさせて頂いている設立三年目の医療法人ではこれまでいわゆる個人のパフォーマンス評価を実施していない。それどころか組織上誰が誰の上司であるかもはっきりとしていなかった。そして昇給評価についても公開された基準は無い。

さてこういう企業での定石としては、パフォーマンス評価の仕組みや昇給基準の設定をしていくのが妥当ということになるとは思うが、一方数年前からいわゆるノーレーティング、すなわち年次考課(あるいは勤務評定、英語でいうAnnual Appraisal)をやらない企業が出て来ている。それではそういう流れの中、従来型のMBOを進めていくことで良いのか。というのが今日のテーマである。

書籍「メジャー・ホワット・マターズ 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR」によると、そういったノーレーティングの流れが生まれて来た原因は次のようなものだ。

年一回の勤務評定はコストがかかり、エネルギーを消耗し、たいていは不毛だ。管理職は勤務評定のために、直属の部下一人につき平均7.5時間を費やす。それにもかかわらず、このプロセスが企業価値を高めるうえで「きわめて有効である」と考える人事責任者はわずか12%にとどまる。時間を費やすだけの価値があると考えるのは、わずか6%に過ぎない。直近バイアスによる評価の歪み、相対評価や正規分布といった制約のために、このような年度評価は正当で合理的に算出されたものにはなりえない

本書では人事評価制度を見直す企業の実例が挙げられている。変化の兆しとして「フォーチュン500企業の10%は、すでに昔ながらの年一回の勤務評定をやめた。その数は増え続けている。伝統に縛られない、規模の小さい無数のスタートアップも同じだ」という。

この伝統的な勤務評定やMBOと呼ばれる目標管理制度に代わる手法として脚光を浴びているのがOKR(とCFR、詳しくは後述)だ。

OKRは”Objectives and Key Results”、すなわち「目標と主要な結果」の略語だ。1970年代に元インテルCEOのアンディ・グローブが使い始めたことで有名だ。

OKRとMBOの違いを次の通り表にしてみた。

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OKRもMBOも「組織の目標と個人の目標・仕事内容をリンクさせる目標管理の手法であり、上司とコミュニケーションを取りながら、組織の目標を達成するための個人目標と業務内容を設定して進捗を管理」するという意味では同じ手法だ。

しかしMBOは長年利用されてきた結果、限界が明らかになっていった。

多くの企業では、目標は本社が中央集権的に決め、それが組織の末端まで降りていくのに恐ろしく時間がかかった。頻繁に更新しないために停滞したり、タコツボ化という罠にはまることもあった。あるいは魂も意義も抜け落ちたKPI(Key Performance Indicator)という数値目標に化けてしまうこともあった。致命的だったのは、ほとんどの企業がMBOを給与や賞与と連動させたことだ。リスクを取ることがマイナス評価につながるのに、なぜわざわざリスクと取る必要があるのだろう。

2009年にハーバードビジネススクールが「暴走する目標」と題した論文を発表している。そこには「破滅的な目標追求「の事例が目白押しだ。論文の著者らは目標は、「処方箋並みに強力なクスリであり、慎重な服用と厳しい管理が必要だ」と警笛を鳴らし。次のような警告ラベルまで作っている。

目標は、視野を狭め、非倫理的行動やリスクテイクを助長し、協力意識やモチベーションを損なうなど、組織的問題を引き起こす可能性がある。

OKRも経営手法の一つであり、この「暴走する目標」が挙げる問題点を未だ抱えている。しかしMBOに比べていくつものベネフィットがありそうだ。

OKRはMBOがビラミッド型の組織で半年又は一年に一回目標を設定する手法をとるのに対して、変化に柔軟に対応する組織らしく四半期毎に目的を見直し、臨機応変に個人の目標やタスクを変え、次の4点を大切にする。

フォーカス:焦点を絞る
アラインメント:全員が同じ方向を向いている
ストレッチ:高い目標
トラッキング:定量的な結果の測定

私自身MBOを長年経験して来て、上記四点の問題点を経験している。ピラミッド型の組織では、企業のパーパスやビジョンと本人の目標にアラインメントを感じることは極めて難しい。また部下の目標設定においても、優先順位付けで部下は日常業務を優先しがちで、これに対して上司は中長期の目標を優先したいというコンフリクトに遭う。目標は給与や賞与に連動していたため高い目標を避けたがり、上司と部下は年一度の考課時以外は定量的な結果の測定をしない。

これに対して、OKRの特徴として全員の目標は可視化される。これにより組織全体のOKRのアライメントが誰にでもわかる。それにより垣根を越えた連携もやりやすくなる

またOKRは年次勤務評定に代わる今日的手法として、対となる継続的パフォーマンス管理(CFR)を推薦している。CFRは次の要素で成り立つ。

対話(Conversation):パフォーマンス向上を目的に、マネジャーとコントリビューターの間で行われる真摯で深みのある意見交換。5つの重要分野は次の通り。
  目標設定と振り返り
  継続的進捗報告
  双方向のコーチング
  キャリア開発
  非公式なパフォーマンス表k

フィードバック(Feedback):プロセスを評価し、将来の改善につなげるための、同僚との双方向あるいはネットワーク型のコミュニケーション。
承認(Recognition):大小さまざまな貢献に対して、しかるべき個人に感謝を伝える。実践方法として次のようなものがある。
  ピア・トウ・ピア承認を制度化する(感謝の文化を築く)
  明確な基準を設ける(特別なプロジェクト、会社の目標達成、会社の
  理念を体現するような行為など、従業員の行動や成果を認める。「今月
  の従業員」を表彰する代わりに「今月の成果」を表彰する。)
  承認の事例を共有する(ニュースレターや会社のブログで優れた成果の
  背景を説明)
  承認の頻度を高め、手の届くものにする(ちょっとした成果も認める)
  承認を会社の目標や戦略と結びつける(カスタマーサービス、イノベー
  ション、チームワーク、コスト削減など)

これまでの年一回の評定を継続的対話とリアルタイム・フィードバックに置き換えようというのがこの狙いだ。そしてOKRによる目標管理と勤務評価を切り離す。

グーグルの人事担当上級副社長であったラズロ・ボックによると、グーグルではOKRが評定に占める割合は3分の1以下だという。それよりも部門横断的チームからのフィードバックや、何よりその人物の置かれた状況が重視される。もちろんOKRと勤務評定は完全に分離する訳では無く、OKRと報酬は一心同体では無く「友達」なのだ。

アドビのケースでは、これまでは煩雑なプロセスを通じて個々の従業員の評点や順位を決め、昇給や自社株支給を決定していたのに対して、新しいパフォーマンス管理では、正式な評点や順位づけはせず、マネジャーは年一回パフォーマンスに基づいて給与や自社株の支給を決定する。社員が固定された報酬の原資を奪い合う仕組みをなくしたことで、チームケートはもはや敵同士ではなくなった

こういった効果を考えるとOKRとCFRに大変魅力を感じる。が、正直私自身企業実務の場で試したことがある訳では無いので、もし今お仕事をさせてもらっている医療法人で導入することを決めるのであれば、まさに試行錯誤の連続になるだろう。しかしそれでも今更問題点の大きいMBOを導入することで企業文化が停滞あるいは後退することが明白なのであれば、失敗を恐れずOKRとCFRをやる方が良いのではないかと思う。

(本記事の内容についてご意見や実際の企業実務についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。OKRやCFR、そして目標管理と勤務評定の切り離しについてお手伝いいたします。)


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