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ゴッホ展 / オルセー美術館@パリ(フランス)
オーヴェル・シュル・オワーズとゴッホ
何はともあれこれを見てほしい。
ゴッホの晩年の作品、オーヴェル・シュル・オワーズの教会。この作品を見て私が感動したのには訳がある。
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3ヶ月前、パリ郊外のオーヴェルにあるゴッホが最期を迎えた部屋と、この教会、その裏にある彼のお墓を訪問しており、今回この絵に出会ったことで、彼の人生を遡り辿った気分になったからである。
私がオーヴェルを訪れたのは9月、晴れた日で、彼が愛した南仏のような明るい日差しが降り注ぎ、周囲には麦(?)畑が広がっていた。最期の10日間、命を振り絞って描き続けた彼の姿が見えるようだった。彼は弟テオと並んで、ひっそりと光の降り注ぐ墓地に眠っていた。
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そして主題となった教会がこちら。ゴッホらしいデフォルメはされているものの、彼の描いた絵にそっくりである。もとい、彼の描いた絵がそっくりであるか。
この絵のシーンは昼か夜か諸説あるとのことだが、天気の良い時のこの地の濃い青空、彼の当時の精神状態を考えると私は昼のシーンではないかと思う。
話を戻すと、今回オルセー美術館で開催されているゴッホ展は、オーヴェルで過ごした彼の最期の数ヶ月に焦点を絞っている。
芸術に昇華された狂気?ゴッホ最期の作品群
ゴッホはアルル、サン・レミーの精神病院を経て、自身も画家で収集家の精神科、ガシェ博士に招かれオーヴェル・シュル・オワーズにやってきて、1890年の7月に亡くなるまでの2ヵ月間、この地の風景やこの地の人々の肖像画を精力的に描いた。
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博士自身にも神経症の気質があったと言われているが、この絵を見ると伝わるものがある。
印象派の画家たちがこぞって描いた水辺の風景も、ゴッホは滅多に描かなかった。しかしその普遍的な主題を選んだとしても水面や木々の勢いある筆使い、ボートの色の選び方など一目でゴッホ作とわかるのが流石である。
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ゴッホはこの地をとても気に入ったそうで、多くの風景画を残している。モネを思わせる淡い色使いの庭の風景画もあり、同じ時代を生きた彼らが交わった世界線を想像してしまう。
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さらに、ゴッホといえばその時々の精神状況が投影されている一連の肖像画が有名であるが、当時は周りの人の肖像画も多く描いたそう。
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さらに、ゴッホについて話すときに避けては通れないジャポニズムの影響。オーヴェルでの制作にフォーカスした今回の展覧会ではほとんど触れられていなかったものの、やはりこんなところで見え隠れしていたり。
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ポスターにもなっている青空。
おわりに
今回のゴッホ展はオーヴェル・シュル・オワーズで彼が過ごした晩年の作品に絞られていたが、アムステルダムのゴッホ美術館の充実ぶりを考えれば、パリで開催するゴッホ展にふさわしいテーマであろう。展示の量もちょうどよく、満足度の高い展覧会だった。
一方で、オルセー美術館といえばパリ第二の来館者を誇る美術館であり、常設展だけでも毎日行列ができている。ここにみんな大好きゴッホ展が加わるとなれば当然大混雑であった。常設展と合わせて回る観光客は、ほぼ1日をここで過ごすことになるのではないかと思う。何もしなくても(というと語弊があるが)人が来る世界的な美術館で企画展を開催する意義について、ルーヴルのナポリ展にも足を運んでもう少し考えてみたい。
最後に、最近の関心である子どもの芸術教育について少し触れておく。今回の展覧会では、子ども向けに低い位置に設置された説明カードとオーディオガイドが用意されており、ブティックには塗り絵やモビールのようなアクティビティに加え、子ども向けの美術史の本もたくさん置かれていた。一方で、大混雑の展覧会場で見かけた子どもは3、4人であり、制作意図が完全に達成されたわけではないと推察する。
最近は生後半年くらいから参加可能なアトリエがポンピドゥーセンター等で開催されるなど、フランスの美術館では子どもへのアウトリーチが重視されていると感じる。敷居が高いとみなされがちな美術に親しむには、幼少期から美術館に足を運ぶことが重要だと思う。このような流れが世界的に進むことを願って筆を置く。
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