間違えがちなフランス語 3. 発音編(マガジン版)
フランス語と言えば「発音が難しい」はたまた「発音が美しい」とまことしやかに囁かれるくらい、たしかにこの言語において発音は重要なポジションを占めています。そればかり喧伝されるものだから妙にハードルが高くなってしまいますが、実はちょっとしたところに注意するだけで意外とあっさり改善する、ということもあります。
外国語を学ぶということは、新しい言語を学ぶこと。つまり、そうである以上それまでに知っている言語の影響を受けないわけにはいきません。日本人がフランス語を勉強する場合、母語である日本語はもちろんのこと、誰もが勉強したことのある英語も、理解の助けになることもあれば足を引っ張ることもあります。
たとえば「五月」のことを、英語では may と言います。"ay" のところは二重母音と言われ、「メイ」のように発音しますね。対するフランス語で「五月」は mai、読み方は「メ」です。"ai" の綴りも英語につられて「エイ」と読んでしまいそうですが、フランス語ではこの二文字で一音、「エ」と読むのです。"J'aime" も「ジェイム」ではないので、気を付けたいですね。
多くの人にとってフランス語より英語の発音の方が簡単に思えるのは、単純に慣れているからです。どちらが簡単、と言うのは難しいですが、少なくともフランス語の発音が英語よりはるかに難しいということはないし、個人的にはフランス語の方が、日本人にとっては発音がしやすい言語だと思っています。
しかし、それには日本人が陥りやすい罠に気を付けることが肝心です。以下、普段僕がフランス語の発音を教えていて特に気になる発音のポイントを、原因も考えながらまとめて行きたいと思います。
(途中どうしても、やや音声学っぽい話も多くなってしまいます。基本的に " " で書かれているものは綴り、[ ] で書かれているものは発音記号になります)
1. 英語の影響
まずは(少ないですが)、明らかに英語の影響だろうというものを見ていきます。見慣れたスペルであるだけに逆に大変ですが、英語の洗脳(?)は取り払ってしまいましょう。
・eu
たとえば "Europe"。英語につられて ユーrope のように読んでしまう方が多いです。しかしフランス語では "eu" は「ウー」に近い音なので、「ユ―」と読むのは間違い。「ユ―」ではなく、ウーrope です。
(発音記号では [ørɔp] 、この団子に串を刺したような [ø] という記号が "eu" の音を表します)
・th
「th音」の呪い、というかトラウマはなかなか取り払えず、英語の勉強で苦労した思いがフラッシュバックするせいか、この綴りを見ると反射的に英語の "th" [θ] で発音してしまうことがあります。けれどフランス語の " th" はずっと簡単で、"t" の発音と変わらないのです(英語よりもむしろ日本語のタ行の音に近いです)。だから「お茶」を表す "thé" はテ [te] でいいし、"sympathie" もシンパシーではなくsympaティでいいのです。
・ir
一見ひねくれたフランス語発音ですが、素直なところもあります。たとえば "circuler", "confirmer" などの動詞で「サークル」や「コンファーム」の連想から "ir" のところを「ァー」と読んでしまいがちですが、フランス語では "i" と書かれていたら イ [i] と読めば大丈夫。なので スィrculer, conフィrmer のように読みます。
2. 日本語の影響
次は日本人特有の、日本語が原因となって不自然な発音になってしまう場合についてご紹介します。意外な盲点があるかもしれません。
読まない母音と読む母音
・読まない母音を発音してしまう
"atmosphère" という単語をご存知ですか?「空気、雰囲気」などの意味を持つ単語ですが、一度発音してみてください。
なんてことない単語に見えて、多くの人がこれを aトmosphère のように発音してしまいます。けれど、綴りを見てみると "t" の後に "o" という文字は書かれていません。なので ト [to] ではなく [t] だけ発音すればよいですが、発音しようとすると変に力が入ってしまい、意図に反して [o] の母音まで出てきてしまったりします。日本語ではそもそも子音と母音を分けて発音するということをしないので、ある意味しかたのないことですね。
なので上手く発音するコツは、発音しようとしないことです。[t] と発音しようとする代わりに、音を出そうとすらせず、舌先を前歯の裏に(気持ち)一瞬つけるだけでいいのです。
他にも "citron"、"fleur"、"plat" など、子音が二つ並ぶ単語は注意が必要です。"f" なら軽く唇を噛むだけ、"p" なら少し唇を閉じるだけでずっと自然な発音になります。
・読むべき母音を発音しない
反対に、綴りに書いてあるにもかかわらず、ちゃんと読むべき母音を発音しないということもあります。
"courage"、"écouter" などの単語ではとくに起こりやすく、本来 cou のところは [ku] とかなりしっかり [u] の母音を発音するのですが、[k]rage、é[k]ter のように "ou" の音が抜け落ちてしまうことが多いです。
これは一つ前の例とは正反対なのですが、実は日本語でも子音を落として発音することはあり、とくにウの段ではわりと頻繁に起こるから、というのが考えられます。
たとえば「薬(クスリ)」と言うとき、「ク」はほとんど [k] だけで発音され、「ウ」の音はあまり聞こえないと思います。しかしフランス語の場合、"ou" と書かれていれば必ず [u] と母音を発音します。
また、他の母音でも似たようなことが起こることがあります。
"intéressant" のようなよく使う単語でも、intréssant のようにほとんど é [e] を落として発音してしまう人がいます。しかし "té" は文字通り [te] と読むので、inテressant のように読めばいいのです(「テ」の音はわりとべたっと発音してしまってかまいません)。
日本語だとエの段の音が落ちるのは珍しいですが、たとえば「山手線」を「やまのtせん」のように発音する人は少なくありません。
このように読まない母音は読まない、読む母音はしっかり読むというのを徹底するだけで、かなり聞きやすく自然な発音になると思います。
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間違えがちなフランス語
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