都立大オープンユニバーシティ「『星の王子さま』を翻訳しよう」秋期講座を終えて
全4回、都立大オープンユニバーシティ講座「『星の王子さま』を翻訳しよう」の秋期が昨日(12月13日水曜日)最終回を迎えました。
今後の受講を考えている方の参考にもなればと、今の時点での振り返りを書き残しておこうと思います。
まずこちら、13日の講義で最初にみなさんにお渡ししたプリントです。
講義は18:30-20:00の90分、だいたい毎回以下のような進め方です。
18:30-18:50 訳読箇所の読み合わせ、問題となりそうな文法の解説
18:50-19:15 その場で辞書やお持ちの既訳を参考に翻訳
19:15-19:20 みなさんの訳文を回収、5分休憩
19:20-19:50 訳文比較、ポイント解説
19:50-20:00 志村訳およびいくつかの既訳の紹介、まとめ
翻訳作業にあてる時間は25分ほどなので、その時間で訳し切るにはかなり多い分量です。
なので毎回、余裕のある上級者の方は全部訳してみる、とても全部は訳し切れないという初中級者の方は一部分だけを選んで訳してもらう、という風にタスクの量を調整しました。
(上のプリントでは、二重下線がとくに訳が分かれそうな重要部分、一重下線が少し読解に骨を折る上級者向けの部分となっています)
結果、回収する訳文の分量は参加者によってバラバラ。でも、それでもいいと思っています。限られた25分をできるだけ多くの文章を訳すのに使ってもいいし、たった一文や二文をとことん考えるのに使ってもいいと考えるからです。
今回とくに問題となったのは一つ目の二重下線部、以下の文章でした。
まず最初の文法解説で、d'un geste discret の扱いについて説明しました。
ここでは Le roi, d'un geste discret, désigna sa planète, les autres planètes et les étoiles. のように d'un geste discret を挿入部、つまり()に入れるような形で読むと意味が取りやすいという話をしました。
ただ、翻訳で難所となるのはむしろ後半の sa planète, les autres planètes et les étoiles. です。sa planète はもちろん「王様の惑星」、les autres planètes は「他の(すべての)惑星」であるのはいいとしても、les étoiles は「星々」? なぜ「惑星」と区別しているのだろう、わざわざ分けて書いているということはこれは「恒星」? いや、そもそも planète を「惑星」と訳すこと自体それでよいのだろうか? と疑問は尽きません。
ここで一人の生徒さんが気の利いた、絶妙な訳を書いてくださっていました。sa planète, les autres planètes を「自分の惑星と他の惑星」と訳した上で、les étoiles を「満点の星空」と訳されたのです。これは唸ります。
「恒星」と訳してしまうと「惑星」より大きなものをイメージしてしまいますが、「満点の星空」と言えば、むしろ「惑星」よりはるかに小さい、背景に溶け込んだ星々を鮮明にイメージできます。
これが授業の最後にみなさんにお配りしたプリントです。
僕の全文訳と、重要箇所に絞って上から野崎歓、河野万里子、池澤夏樹、そして内藤濯の訳文を載せています。
白眉なのは、内藤訳「じぶんの星とほかの星を、ずうーっと指さしました」でしょう。"les étoiles" を「星」とも「恒星」とも訳さず、それら夜空に散らばる星々を指さすときの腕の動きを訳出しているのです。なんという力業。
みんなでせーので原文にあたり、それぞれ孤独な25分を闘ったあとに訳文を照らし合わせ、さまざまな訳語ひしめく迷宮をともに歩いたあと、先人の答えにわずかな光明を見出す。
このようなプロセスを90分という短い時間のなかでたどる、とても楽しい全4回の講義でした。
昨日は、常連だという一人の生徒さんが手配をしてくださり、講義終了後、希望者で飯田橋キャンパスからほど近くにあるバー "Atypique" にて打ち上げ&プチ忘年会を行いました。
お仕事や体調不良で来られなかった方も数名おり悔やまれましたが、回数を重ねるごとにクラスの雰囲気もよくなり、最後にはこうした楽しい機会にも恵まれ嬉しかったです。
秋期講座は終了となりましたが、1月からは同じ内容で冬期講座を開講予定です。
すでにお申込み始まっていますので、ご興味ある方はぜひぜひご検討ください(最後に宣伝)。
都立大パンフレット2023冬号 (tmu.ac.jp)
ではではみなさん、Joyeux Noël et bonne fin d'année ! (un peu en avance)