
Photo by
daraz
掌編小説【温かい手への迷走】416文字
最初の気持ちは
ほんの少しの恐怖だったはずなのに。
二度と繰り返さないようにと防衛本能が働き、心を守るために牙と爪を剥き出しにする。
傷付けたいわけじゃない。
怖がらせたいわけじゃない。
ただ安心したいだけ。
ただそれだけなのに。
私の本能が、こいつは敵だと訴える。
私を傷付けてきた人たちとは別人なのに。
種族が同じというだけで、体は攻撃態勢に入る。
心の中では叫んでいるのに。
助けてって。
叫んでいるのに。
体はいうことを聞いてはくれない。
どうすれば、この人を傷つけないでいられるのだろう。
防衛本能で埋め尽くされた頭で考えても。
答えは出ない。
ただ救いなのは。
毎日のように「大丈夫」と言いながら、
私の頭を飴細工のように触れてくる、温かい手があることだ。
この手をすぐに信頼してしまうほど、私の防衛本能は強くない。
もう傷付きたくないくらい弱っているから、牙と爪を隠せない。
でもほんの一瞬だけ。
またたきを一回するくらいの時間だけ。
この手に甘えても良いのかな。
いいなと思ったら応援しよう!
