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掌編【優しさの中の甘い記憶】322文字#プリンの日


「プリンを作るときに出来ちゃう穴はね、泡に妖精さんが入り込んで出来ちゃう穴なの」

キッチンに甘い香りが漂う中で、母が私に教えてくれた。

「妖精さんが入り込まないように、泡をきちんと取り除いて、隙間を無くすのよ」

プリン液をこしながら器に注ぎ、残った泡を手際良くスプーンで取っていく。

「でもそうしたらようせいさんはプリン食べられないよ?」
「そうねえ……妖精さんにもプリンを食べてほしい?」
「うん! だってママのプリンすっごくおいしいもん!」
「それじゃあ、一つは妖精さんにおすそ分けしましょう」

私の頭を撫でながら微笑みかけてくれた母は、もういない。

だけれど、母が教えてくれた優しさは、此処にある。

「……美味しい」

甘い香りが漂う中で、私は思い出を嚥下した。




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