ほとり
牛乳をあたためる
大通り沿いの窓際で
ゆっくりと飲む
部屋の明かりをオレンジにして
ソファにくったり沈みながら文字を打つ
もう眠ってしまいたい気もちと まだ眠りたくない気もちが
揃ってこっちを見てくるかんじ
眠らない、と眠れない、の間の気分
わたしは今週からその気もちを、ねむりるない と呼んでいる
ねむりるないでいる今
あたまのなかでわいわいしている色々の
いまはどれとも目を合わせないで
どこかの森のフクロウの気もちになる
夕食に飲んだスープのにおいが
おでこから香ってるような気がするけれども
それもまたなんとなくのテキトウなわたしの感触
確かめようもないが
"そんな気がする"ときの現実は
四捨五入すれば二通り、
その通り か、 気のせい
◇
あしたは満月
暮れた空の表情がおもしろくて、職場から自転車で 東を目指しながら楽しんだ。さむいなか御使いに出掛けたけど だから苦じゃなかった
あの月と遠くはないサイクルで、じぶんのなかにも満ち欠けがある
ひびのかなしみとよろこびはさておいて
浮き沈み、得手不得手、それらと似たかんじの、満ち欠け
それには ポジティブな日とか、のどの渇く日とか、涙もろい日とかの種類がある
今晩は どんなに食べてもお腹が満ちない日だった
時間をかけて よく噛んで 食べ続けた
ぱくぱくもりもりがぶんがぶん
そうしたあとに
でもまだ欠けてる気がするものだから
カルシウムを摂ろう、とか頭で言いながら
マグカップを相棒に
動けないでいる
いや 動かない、と 動けない、のあいだの気分だから
ねむりるない、の法則に沿うと
うごきくない、となるかもしれない
うごきくないでいる今
◇
むかしはホットミルクなんて好きじゃなかった
関係が変わるのに特別なものがたりがあった覚えはない
いつの間にかわたしには
きらいなものが減って
すきなものが増えている
視界のぜんぶに目を向けて、じぶんのグラフに無理繰り当てはめて、時間を費やしていたのかもしれない。そんなこと出来っこない、しなくていい、と今はおもう
あまり激しい気もちを持つことはなくなった。なにかに対するすききらいをはじめ、だれかと関わるときの温度とか、感触とか、そういうものがするっと均されたみたいだ
わたしを中心に、内にも外にも飛び出していたとんがりが減って まるくなってきた
そんな気がする
しかし
丸くなるな、星になれ。
というキャッチコピーはずっと好きだなぁ
ビールは飲まないけれど
機会があれば乾杯しましょう
今この瞬間の夢は、まるい無害なおふとんになること
さめた牛乳と月のつめたさには
たぶん近いものがある
そう思いながら
ねむりるない、うごきくないモードを脱出する