第13話「鳩が飛ぶのを見てみたい」
「そうか。そんなことが・・・・・・」後藤くんはそう呟いて、人でごった返すロビーを見渡した。
大勢集まるロビーから、少し離れたソファで私たちは座っていた。階段下で起きた出来事を打ち明けて、後藤くんはもう安心しろよと言ってくれた。内山田の行為は許す難いと言って、私の側から離れることはしなかった。
「これからどうなるの?」
「今、警察がホテル内を捜索してる。捕まれば良いけど。相手は銃を持参してるから油断できないだろうな」
「ねぇ、さっきは気が動転してたから忘れてたけど。後藤くん、犯人に向かって名前を叫んでなかった?」
「ああ、呼んでたよ。あの男は木島。俺たちの同級生だった奴だ。覚えてるだろう?」
「嘘でしょう。ホントにあの人が木島くんなの!?」と私は信じられない目で後藤くんを見つめた。
あの男が木島くんなんて驚いた。だけど、高校時代の彼の面影が全くもってなかった。市川夏菜子じゃないけど、彼も女子からの人気は相当だった。それに、私も木島くんに恋をしていた。
だけど、会場に現れた拳銃男と木島くんがどうしても同一人物だと思えなかった。ボサボサに伸びた髪の毛。襟元が伸び伸びのスウェット。色褪せたジーパンは膝の部分が破れていたような気がする。
そんなみすぼらしい姿を見て、どうして後藤くんは木島くんだとわかったのか?
「ねぇ、何であの男が木島くんだとわかったの?もしかして、さっき言ってた例の事件と関係してるの?」
すると、後藤くんが真剣な眼差しで見つめてきた。言いづらいことなのか?それとも探偵をしている後藤くんの、仕事上話せない内容かもしれない。だけど、あのとき知りたかったら話してくれると言ってくれた。
「・・・・・・鳩。木島の手の甲に、鳩のイラストのタトゥーが彫ってあるんだ。それが確認できたから奴だとわかった。それに木島はある事件に関わってる。だから、もしかして今夜の同窓会に来るんじゃないかと予想してたんだ」と後藤くんが神妙な顔をして教えてくれた。
「鳩のタトゥー?それがある事件と関係してるってことなの!?」
私の質問に、後藤くんは悩ましい顔をした。彼の心は読めないけど、私を巻き込んで良いのか迷っているかもしれない。確かに私なんてただの一般市民。
だけど、今夜の同窓会に参加した理由は私にもある。あの夜の出来事の真相を知りたい。
「申し訳ありませんが、同窓会に参加していた人は集まって下さい」と警察官の一人がロビーに集まる人たちへ声をかけた。
「何かしら。もしかして犯人が捕まった?」
「かもな。とにかく集まろう。和泉、あとで時間を取ってくれるか。お前に話しておきたいことがある」
「勿論よ。こんなことになったのは驚いたけど、やっぱりこのまま知らないのは気持ち悪いわ」と私は決心して答えた。
すると、後藤くんは軽く頷いてソファから立ち上がった。そして、一人の警察官に向かって声を掛けた。新人の警察官なのか、ずいぶんと若い。
若い警察官は後藤くんを見るなり、驚きの顔をして駆け寄ってくる。
「後藤先輩!お久しぶりです」と若い警察官は敬礼してから深く会釈する。
二人がどんな関係なのか知らないが、若い警察官は後藤くんの話を真剣な顔して聞いていた。まるで服従した犬みたいだ。探偵という仕事は警察と繋がりがあるのか。もしくは情報をお互いに交換してる関係かもしれない。
とにかく、若い警察官は後藤くんの指示に従っている感じがした。
「三井、それじゃあ頼んだぞ」
「わかりました!和泉さんのそばにずっと居させて頂きます。後藤先輩も気を付けて下さい」
「和泉、あとで合流しよう。俺の方はもう少し調査してるから。連絡は俺からするよ。それまでコイツが守ってくれるから」と後藤くんはそう言って、その場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待って!私の携帯番号知らないでしょう」
「そうだそうだ。肝心なところが抜けてた。悪い悪い」
一旦、後藤くんを引き止めて携帯番号を交換した。この若い警察官と何のやり取りをしたのか疑問だったけど、とりあえず今は素直に従うことにした。何しろまだ現場が落ち着いていない。ゆっくり話すなら時間をかけて話し合いたい。
こうして、私の初めての同窓会は終了を迎えるのだった。
第14話につづく