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第33話「鳩が飛ぶのを見てみたい」
真夜中の訪問者に緊張が走る。木島直樹は横にずれて、背後の二人からも見れるようにしてくれた。非常灯の灯りの下、姿が露わになった人物は後藤だった。和泉麻里奈が居る病室の前に立ち止まると、後藤は左右を見渡してから扉の取っ手に手を掛けた。
和泉麻里奈の病室は個室で、面会謝絶の札が掛かっている。そんなことは御構い無しに、後藤は病室に入って行くのだった。その様子を見ているのは、暗がりの廊下で待機している三人。木島直樹から絶対に動くなと言われていたが、病室に入って行った後藤のことが気になる。
一体、彼は何をする気だ。しかも面会謝絶にも関わらず、こんな真夜中に訪れることが妙だ。和泉麻里奈は目が覚めていない。今の時点で話すこともできない筈なのに。大貫咲が疑問に思っているとき、木島直樹が囁くような声で「出て来るぞ」と呟いた。
扉を引いて病室から出てきた後藤の顔が焦っていた。顎に手をかけて視線が定まらない。しばらくその場で考えてるようだったが、何かを思い付いたのか胸ポケットから携帯電話を取り出して、誰かに連絡しようとした。
だが、こんな真夜中だと電話に出てくれないのか。耳に当てた携帯電話を離すと、後藤は落胆の顔のまま立ち去った。その様子を見ていた三人は、同時に顔を見合わせた。
そして、誰よりも先に話したのは・・・・・・
「どういうこと?後藤くんは何しに来たの」と大貫咲が二人の顔を左右に見ながら訊く。
「相変わらず予想通りに行動するもんだな。あいつの目的は、和泉の命を奪うつもりだったんだよ」と木島直樹が言うと、もちろん大貫咲は焦って病室へ向かって駆け出そうとした。
「大貫さん、母は無事です!」と尚美が止めに入る。
「どういうことよ。説明しなさい。一体あなた達、何をしたの?」と一人意味がわからない大貫咲が、少し大きな声で聞き返した。
すると、木島直樹が病室へ入ろうとした。その後ろについて行くと、病室に入るなりカーテンの開かれたベッドを見せた。なんとベッドに和泉麻里奈の姿は無く、もぬけの殻のベッドだけが目に映った。
これはどういうことなのか?確かに昨夜までは、この病室で和泉麻里奈は安静にしていたはず。
「和泉の病室はここじゃない。俺たちが場所を移したんだ。後藤が来ることを予想して。あいつの目的は、あくまでも和泉の命を奪うこと。それが失敗となれば、今夜にでも行動すると思ってた。それに、大貫と待ち合わせができないとなったら、先に命を奪うのは和泉と予想できるからな」と木島はそう言って事情を説明した。
そして場面は病院から出て、木島直樹の運転する車中へ戻る。
「そろそろ向かってる場所を教えてくれても良いんじゃない?」と大貫咲が木島直樹に訊いた。
「そうだな。もうすぐ到着する。そこで全てを話そう」木島直樹はそう言って、ハンドルを切った。
沈黙のまま車を走らせて数十分が経過した。大貫咲は見覚えのある風景に身を乗り出すのだった。
木島直樹が向かった場所とは?
第34話につづく