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第25話「世の中はコインが決めている」

 絵馬さんの秘密を話すべきが迷ったけど、結局内緒にすることを選んだ。僕の見間違いかもしれないし、それに判断が難しい。

 きっと正論くんに絵馬さんの奇妙なモノを見てしまったこと言ってしまえば、彼のことだ絶対に調べろと言うに決まってる。

 これは僕だけで調べれば良い。そうと決まれば、もう一つのミッションを遂行しなければならない。今日のところは帰るとして、僕は喫茶店をあとした。

 朝食の食パンがきれていたのを思い出して商店街へ向かった。商店街のアーケードの入り口付近にあるパン屋。そこで働いてる女性店員とは仲が良かった。僕にしては珍しく、出会った当初から気が合うのだった。

 午後四時過ぎということあり、店内に客は居なかった。プレートを手にして店内をぐるりと回ったとき、店の奥から女性店員の弓子さんが声をかけてきた。

 店員の名前は破魔弓子(はま・ゆみこ)。年齢は三十代後半ぐらいだろう。ぽっちゃりした体型で、誰にも好かれそうな優しい性格の女性だった。当時、あまりお金の無かった僕に対して、色々とサービスをしてくれた。今では正論くんの次に、僕の中で気兼ねなく話せる人でもあった。

「いらっしゃい、はじめくん。仕事終わりなの?」と弓子さんが笑顔で話しかけてきた。

 初めて会ったとき、僕の名前を聞いてきた。それから弓子さんは、僕のことを下の名前で呼んでくれる。初めは戸惑ったけど、不思議と弓子さんの場合は、それが普通になって距離が一気に近くなったことを覚えている。

 きっと、彼女の飾りっ気ない性格と相手のことを優しく包んでくれるような雰囲気が良いのだろう。

「明日の食パンが無くなったので。弓子さん、元気でしたか?」

「勿論、元気よ。はじめくんも元気そうね。最近、仕事忙しかった?」

「この時期は生産が多くなってくるんですよ。でも、仕事があることは有り難いです」

「そうね、私も同じ意見。それで一斤で良いかしら?」と弓子さんはそう言って店の奥へ行った。

「どうせなら焼き立てを持っていって。さっき焼けたところなの」

「いつもありがとうございます。焼き立ての方が断然美味しいから嬉しいです」と僕は感謝を述べた。

「そう言えば、さっき正論くんも来たわよ。珍彼、珍しく世間話をしてきたのよ。ほら彼って、結構ミステリアスなところがあるでしょう」

「確かに。でも、知らなかったな。正論くんも、ここのパン屋に来てたんだな。それで何を話したんですか?」なんて聞いたのは、正論くんが世間話するなんて想像もつかなかったからだ。

「えっ、何話したかしら?大した話はしなかったと思うけど。普通の世間話よ。休みの日は何してるとか?」

「ふーん、そうですか……」

「はい、一斤。今、包むから待っててね」弓子さんはそう言ってレジの打ち込みを始めた。

 お金を支払って店を出ようとしたとき、弓子さんが急に思い出したように声を上げた。

「そうそう、思い出した。彼、奇妙なことを聞いてきたのよ。なんでそんなことを聞いて来たのか不思議だったけど」

「えっ、何ですか?」と僕は聞き返した。正論くんが奇妙なことを聞いて来たなんて、気になってしまう。

「ここのパン屋に、私がいつから働いているかって。なんでそんなことを聞くのかしらね?」

 弓子さんが何年働いているか聞いた?なんで正論くんはそんなことを聞いたのだろう。全く意味がわからなかった。でも、正論くんが聞くってことは何か意味はある……

「そうですか、わかりました。じゃあ、また今度」僕はそう言ってパン屋から出て行った。

 店を出てから考えてしまう。何故、正論くんは弓子さんの働いていた年数を聞いたのだろうか?

 なんだろう。検討もつかなかった。そのとき、後ろから弓子さんが声をかけてきた。振り向くと、弓子さんが店から小走りで来る。

「どうしたんですか?」

「思い出したの。私が話したことにすごい興味津々な顔をしたのよ!」と弓子さんが不思議そうな顔して言うのだった。

 あの世論くんが興味津々な顔をした。それを聞いて、僕の中で興味が湧く瞬間でもあった。

第26話につづく

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