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第15話「蛇夜」

月明かりを頼りに砂利道を歩く。アスファルトの道路じゃなければ、現代みたいに舗装されてるわけでもない。左右を見れば田んぼが広がり、蛙の合唱が耳を騒つかせる。改めて、自分の生まれ育った町が田舎で何もないところだと思えた。町でもなく、村と言った方が正解だろう。


暗闇の前方に黒土山が見える。子供の頃、良く遊んでた山だ。黒土山と呼んでいたが正式名は違う。村の人間たちが昔から呼んでいた呼び名だった。

だから子供たちも、黒土山と呼んでいた。山の土が黒っぽいという単純な理由で黒土山という名前に意味はない。


先頭を歩く鍋子が振り向いて、今夜の遊びを話す。どうやら目的地は黒土山とわかった。何しに行くのか?それはまだわからない。だけど、俺はわかっているフリをしていた。

今夜、親にも内緒で黒土山へ行く約束をしていたんだ。ここでわからないとなったら、鍋子から疑いの目で見られるだろう。あくまでも知っている程で話さなければ。


「なぁ、夢川くんはどう思ってる?」


「お前はどうなんだよ?」と俺は表情はそのままで、質問を質問で返して鍋子の質問を知ろうと試みる。


「私は聞いたことないわ。夢川くんのおばあちゃんの話やろ。でも、ウチの親もおらへんかったから、ホンマかもしれへんなぁ。偶然やったんやろ、おばあちゃんの話を聞いたんも」


鍋子の話から推理する。どうやら目的の黒土山へ行く理由は、俺の祖母が話した内容に関係しているみたいだ。しかも、鍋子の親も家に居ないと言う。

俺の両親は家で寝ている。そう言えば隣の部屋に祖母が居たんだ。思い出したが、祖母が部屋に居たかは確認していない。だけど、鍋子の話から祖母も出掛けている。


しかも、こんな真夜中に。


「おばあ、部屋におらんかったで。絶対、黒土山に行ってるはずや」と俺は話を合わせて言う。


「ウチの親も母親だけおらへん。やっぱり、夢川くんの言うように女だけみたいやな。何してのやろ、こんな真夜中に。しかも今夜は七夕やで」と鍋子が言う。


七夕、今宵は七月七日なのか。七夕の日に黒土山へ何用が!?村の風習で七夕の日に何かやるなんて聞いたことはない。でも、確かに俺はその話を偶然に聞いたみたいだ。一緒に住んでる祖母から。だが、思い出してみると、俺と祖母は決して仲が良くなかった。母親と違って、口うるさい人間で揚げ足を取るタイプだったからだ。


ほとんど会話もなく、俺が上京してから間もなくして亡くなった。はっきり言ってそんな記憶でしかない。


「とにかく行ってみよーや。行ったらわかるよ。鍋子のオカンもおるはずやし。きっと大人たちは隠してるんや。何か知られたくないことなんやろ」


「なんか、ワクワクしてきたわ。夢川くん、急ごう!」鍋子はそう言って、スカートを翻して黒土山へ向かって駆け足で走った!


だんだんと、俺もワクワクしていた。大人になって忘れてしまった記憶。この村で、俺は何かを体験している。その答えが黒土山にある。昨夜の悪夢も恐らく黒土山と関係している。


今夜、俺と鍋子は黒土山の秘密を知ることになるかもしれない。


第16話につづく

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