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第24話「鳩が飛ぶのを見てみたい」
電車が走り去ってホームへ人が次々と降りて来た。行き交う人々の中、私だけ一人、緊張に包まれながら微動だにできない。背中に当たるナニかの感触はある。背後の人間はまだ後ろにいるみたいだ。どうしよう、助けも呼べない。もしかして刺すつもりなんじゃ。
「麻里奈、麻里奈じゃない!」と自販機の陰から、予想外の人物が出て来て声をかけて来た。
なんと、大貫咲が笑顔で近寄って来た。ホッとした瞬間であり、背後の人物がどう出るのか不安になる。顔が引きつったまま、私は声も出せないまま大貫咲の顔を見た。私の不安を他所に大貫咲は女子特有の大きな声で、手を振って近寄って来る。
「どうしたのよ。遊びに来てたの?」
「え、ええ・・・・・・」と私がそう答えた瞬間、背後に立っていた人間の気配が消えた。
恐怖感から大貫咲の腕を掴んで、後ろを振り返ったが、すでに背後に立って居た人間は跡形もなく立ち去ったようだ。顔面蒼白になってるだろう。そんなことを思いながら、私は息を整えて大貫咲に質問した。
「ねぇ、私の後ろに誰かが立っていなかった?」
「後ろに・・・・・・」と大貫咲は身体をずらして私の背後を見る。
その表情は普通で、ホントに何も見ていないような顔をしていた。見ていないのか?それとも気にすることでもなかったのか。
誰かが立ち去ったとしても、わからないかもしれない。大体、後ろに立っていた人物の背丈や格好も見ていない。あくまでも声と恐怖でしかない。
だけど、偶然にも助けられた。そこは大貫咲に感謝しなければならない。寄り添うように掴んだ手が腕を離そうとしなかったので、大貫咲の方が怪訝な顔を一瞬だけ浮かべた。
でも、頭の中は複雑な気持ちでいっぱいになった。
ここに来るまで娘の車両に大貫咲を見て、私はどこか怪しい人物として思っていた。だけど、偶然にも助けられたことは間違いない。だったら、彼女がここに居たことは偶然で、今回の事件に何も関わっていない。
ただの私が勘違いしただけだったのか。
「ねぇ、どこへ行くのよ。良かったらお茶でもしない?」と大貫咲がのんきな声で言ってくる。
あまりに温度差があったので、拍子抜けはしたけど、生きた心地がしなかった数分前よりはマシである。だからと言って、のんきにお茶なんかしてる場合ではない。
「待ち合わせしてる人が居るから、今度ね」と私は無愛想に答えて、その場から離れようとした。
まずは後藤くんに連絡を入れなきゃ。きっと心配してる。まさか、こんなにも早くはぐれるなんて思いもしてないだろう。私の背中に向かって大貫咲が何か話しかけていたが、それを聞こえないフリして、一旦ホームを離れて連絡することにした。
ワンコール、ツーコールと鳴り続けるが、後藤くんは電話に出てくれない。まだ電車に乗っているのか。それとも出れない理由があるかもしれない。とりあえず、次の電車に乗って同じ方向へ行くことにした。再びホームに戻って、なるべく人が居る場所を選んだ。
次の電車は六分後に来る。辺りを見渡しながら、私は背後を注意して老夫婦の後ろへ並んだ。
さっきの奴が戻って来るとは思えないが、一様は用心して神経を尖らせた。
「ちょっと、麻里奈。どこへ行くつもりなのよ?」
私を呼ぶ声に振り向くと、大貫咲が真面目な顔して立っていた。まだホームにいたのか。しつこいとは言わないけど、彼女の相手をしてる暇はない。私がどこへ行こうと、彼女には関係ないのだから。
「大貫さん、ごめんなさい。私、ホントに急いでるの。だから今度ゆっくり・・・・・・」と私が言った瞬間、「後藤くんでしょう。麻里奈と後藤くんが娘さんを尾行してるのは知ってるわ」と大貫咲はそう言って、私に近寄って何かを差し出した。
「え、これって・・・・・・!?」
「急いでいるんでしょう。だったら、私もついていくわ。あなたの味方なんだから!」
大貫咲が差し出したモノを見て、彼女がこの件に関することを知ってる人だと理解した。そして、この謎めいた事件に関わっていくことを本気で覚悟するのだった。
第25話につづく