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第57話「真夜中の飛行船」

インターホンの横に住人の宛名はなく。この部屋に鋭角本人が住んでるかはわからない。それでも俺は、インターホンを鳴らして扉の前で待ち続けた。正直言って、インターホンが鳴ったのか音らしい音は聞こえない。

不安になり、もう一度インターホンを鳴らしてみる。やっぱり音は聞こえない。しばらく無音状態が続く。やはり留守なのか扉が開く気配はなく、ただただ静寂な空気が流れた。仕方なく、インターホンの音が鳴らなかったので、俺は思い切って扉を軽く叩いてみた。

すると、扉の向こうから誰かが歩いてくる音が聞こえた。一瞬で緊張感に包まれる。手に持っていた金属バットを背中に隠して、無意識のうちに唾を飲み込んだ。

扉に覗き穴が無かったので、おそらく部屋の住人は扉を開けるはずだ。ゴクリと喉が鳴った瞬間、俺の目の前でゆっくりと扉が開いた。

顔半分ほど覗けるくらいの隙間が開いて、丸坊主の男が顔を覗かせる。男の顔は頬がこけて、第一印象は決して健康そうな表情に見えなかった。無精髭で黒いトレーナーを着て、首回りはヨレヨレで清潔感もなかった。

「何か?」と男は視線を上から下まで舐め回すように見てきた。

「新聞の勧誘ならお断りだよ」

「いや、違います。失礼ですが、あなたは鋭角さんで間違いないですか?」

「はぁ!?お前誰だよ」と男は目を大きく開いて言い返した。

「実は、あなたが鋭角さんならお聞きしたいことがありまして。その、あなたが前に働いていた不動産屋で、神木恵梨香という女性を知ってますよね」

次の瞬間だった。男は尋常じゃない声を出した!突然の奇声に驚いて、後ろへ一歩下がってしまった。すると、男は扉を閉めようとした。

やっぱり男は鋭角で間違いない。扉が閉まる瞬間、俺は足を伸ばして扉の隙間へつま先を滑らせた。ガツンと、鈍い痛みがシューズ越しに響いたけど、そんなの御構い無しに手を伸ばして扉が閉まらないよう抑えた。

「おい!け、警察を呼ぶぞ!」

「何言ってんだ!警察を呼ばれて困るのはお前の方だろ」

無理やり身体を扉の隙間へ入れて、俺は男を突き飛ばして部屋へ上がり込んだ。手に持っていた金属バットを上に構えて、転んで倒れた男へ振りかざした。男はそれでも奇声を出して何か言っている。勢いよく詰め寄ると、男へ向かって黙るように叫んだ。

「おい、静かにしろ!俺は警察だ。お前が神木恵梨香を殺したことはわかってんだぞ」

よくこんな場面で警察なんて嘘が言えるもんだ。咄嗟に出た言葉だったので、警察官っぽく振る舞う。と言っても、テレビのイメージであって実際はこんな風じゃないだろう。

それでも警察という言葉が効いたのか、鋭角本人と思われる男は観念して、うな垂れるように座り込んだ。

「おい、奥に行けよ!」

そもそも金属バットを手に持った警察官がいるかよ。鋭角は見た目通りの男で、素直に従うと部屋の奥へ意気消沈の表情で歩いて行った。とりあえず、これで落ち着いて話せる。

あとは本人から真相を聞き出すだけだ。

部屋の奥はコンビニ袋が散らばり、缶ビールが布団の上に散乱していた。はっきり言ってゴミ屋敷だ。悪臭も漂っており、人が住むような部屋ではなかった。鋭角の人間性を表している。そんな人間が殺しをしてるかと思えば恐ろしくもあった。

念のため、鋭角が逃げないように金属バットは構えたまま、俺はうな垂れる彼に向かって話し始めた。まずは、彼がホントに神木恵梨香を殺したのか確かめる。俺はポケットに忍ばせていたボイスレコーダーのスイッチを押して質問した。

「おい、正直に話せよ。お前は何故、神木恵梨香を殺した」

あくまでも彼を殺人犯と決めつけて、俺は質問をした。

「……神木さんを殺すつもりはなかった。あの日、突然彼女が部屋にやって来た。そして彼女は話し始めた、ある家の秘密について」

このあと、鋭角は素直に神木恵梨香が訪ねて来たことを正直に話し始めた。

そしてついに、呪われた家の全貌が明らかになってくるのだった。

第58話につづく

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