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第38話「真夜中の飛行船」

「証明してくれますよね」と神木恵梨香が静かな口調で言った。

今から何が起こるのか、そんなことは想像もしていなかったので、思わず頷いて彼女の行動を見ていた。ベッドの上へ立って、ぶら下がった縄の柱部分を見上げている。そして彼女は何かを呟き、俺に向かってそばへ来るように手招きした。

「なに?どうしたんだよ」

「諸星さん。すいませんが、私を肩車してもらえませんか?柱から縄を外したいと思います」

「いやいや無理だって、あんな高い所は肩車しても届かないよ」と俺は柱を見上げながら言う。

「……そうですね。うーん、脚立があれば届きそうなんですけど」と神木恵梨香は諦める様子がない。

「わかったわかった。君は縄を調べたいんだろう。だったら切れた縄があるから、それで良いだろう」と俺は箪笥の上に置いていた縄を取りに行った。

彼女が柱から縄を取りたいと思う気持ちはわかる。俺もそうだったからだ。そんなことは前から思っていたけど、呪いやら屋根裏に隠してあった木箱が、柱のあった場所と聞かされたら怖くて取ることに躊躇してしまう。

そんなことが心の中であったので、俺としては柱から縄を外すのは反対だった。

「ほら、これで良いだろう」と俺は切れた縄を彼女へ投げた。

「あの、この縄って科学的に調べたりしましたか?」と神木恵梨香は縄をじっくり観察しながら訊いてきた。

「科学的って、そんなの無理だよ。俺に科学者の知り合いがいるわけないだろう。それに何て説明するんだよ。第一、仮に調べるにも金がかかるし」と無茶なことを言う彼女に対して、俺は正直困った顔をしてしまう。

「そうですけど……」と神木恵梨香はボソボソと言うのだった。

「まぁ、好きなだけ調べなよ」俺はそう言って、トイレに行こうと席を外した。

随分と研究熱心だが、これは科学的に調べようがないと思っていた。そもそも突然、縄で首を吊ってることが常識を超えているのだ。呪いのせいにしてしまえば、それはそれで納得するしかない。現に俺の身体は異変が起きているんだから。

用を済ませて、居間に戻ると神木恵梨香が椅子に腰掛けていた。何故かパーカーを脱いでいる。その姿を見て驚いたのは、パーカーの下がタンクトップだったからだ。幾ら暑がりとはいえ、真冬の格好ではない。

俺の家もストーブが付いていると言っても、空気は寒かったからだ。

「あのさ、ホントにその格好は寒くないの?見てるこっちが寒くなって来るよ」と俺が呆れた顔して彼女へ近寄った。

ズブッ!?

俺が近づいた瞬間、神木恵梨香が椅子から立ち上がって俺に寄りかかった。脇腹に鈍い痛みが走ったとき、何が起きたのか理解できなかった。そして、ゆっくりと生温かい感触と鈍い痛みが鋭く変わった。

「諸星さん……」と神木恵梨香が顔を近づけて呟いた。

もしかして、俺は刺されたのかもしれない。

第39話につづく

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