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第14話「世の中はコインが決めている」
生ビールから始まって、料理が懐石料理のように次から次へと運ばれる。刺身の盛り合わせに、小鉢に入った菜の花のおひたし。ブリの煮付けは最高に美味しかった。絵馬さんとの会話がこんなにも楽しいなんて、僕自身が驚いていた。
本来、人間嫌いなところがあり、特定の人としか付き合いがない。ましてや、女性と二人っきりで飲みに行っても、僕なんかじゃ退屈だろうと避けていたところもあった。
だけど、不思議と絵馬さんとは気が合う。呼吸が合うのか、話が尽きないのだ。
久しぶりに随分と飲みも進んでいた。かれこれ飲み始めて一時間。あっという間に生ビールを三杯。続けてワインを二人で二本もあけた。
「へぇ、そうなんだ。電信柱の貼り紙を見て面接したの。そっか、あの頃ってまだ貼り紙をして募集してたわね。懐かしいなぁ。鳥居くんって、誰に面接してもらったの」と絵馬さんが訊く。
「班長の阿弥陀さんです。今と雰囲気は違ったかな。素っ気ない感じだったし、その日に受かったんですよ」
「班長って昔は仏頂面だったのよ。でも、昔の方が良い人だったかもね。今のあの人は苦手かも」と絵馬さんは昔を思い出すように言う。
「そうなんですか。でも、僕たち社員には相変わらず冷たい人ですよ。そういえば、絵馬さんってどうしてここで働こうと思ったんですか?」と僕は疑問に思っていたことを質問した。
「うーん、特に無いかな。二十代はオフィスレディとして働いていたけど、人間関係に疲れて、しばらく休んでいたの。でも、ずっと休んでいても駄目人間になるじゃない。だから職を探そうと思って、重い腰を上げたの。そしたら偶然なんだけど、先代の黄金さんから声をかけてもらったのよ」と絵馬さんが僕の知らない人物の名前を言った。
「ホントは話しちゃ駄目なんだけど、鳥居くんには教えてあげる。はは、私酔っ払っているのかしら。まぁ、良いわ。とにかく、この名もなき会社を設立した人が先代の黄金(おうごん)さんという人物なの」絵馬さんはそう言って数十年前の話を聞かせてくれた。
今から数十年前、名もなき会社を設立した男が居た。男の名前は銀次郎(ぎんじろう)。年齢は四十代で元々は政治家の秘書をしていたという。では銀次郎が何故、この会社を設立したのか。
そして、あの謎めいた人間の形をしたピースは何なのか?僕の知らなかった歴史が語られるのだった。ワイングラスを片手に、絵馬さんは当時を振り返った。
第15話につづく