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第18話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

「こんな行為、誰にもするわけじゃないよ。信じないかもしれないけど、こんなこと海ちゃんが初めてだし、それに他人に胸を見せたことも」と射精した僕へ桃香が言った言葉である。

でも、正直言って、桃香に対してそんな風に思わなかった。少しもそんな考えは浮かばなかったし、これっぽっちも桃香をそんな目で見なかった。

僕らはサンドイッチの中身を大事にして、頃合いの良いタイミングで食したと。今でもこれからも思っていた。


それは桃香だから思うことであって、もしも、桃香じゃなかったら僕はそんな風に思わないだろう。穢れの知らない手のひらに出した白い液体。

そんな液体を、愛おしい表情で見つめる桃香。渡されたポケットティッシュで拭き取る僕。処理の終わった生肉を普通に食べる人間たちは、僕らが普通に生きているなんて思わないだろう。

だって、普通に生きて、普通に生活を過ごしているのだから。


思い違いが普通に生きている人たちを変な目で見てしまう。それはとても悲しいこと。もしも、桃香が僕の名前を呼ばなかったら、あのとき、あの道で声をかけなかったら、僕らは一生出会うことはなかったと。


のちの僕が思うことだった。


僕は常々、ふと考えることがあった。
普通に生きている人が、他人から変わっているとか言われた場合、ホントにその人は変わっているのだろうか。

僕は変わっていないと思っていた。その人にとって普通のことであり、何ら他の人たちと変わらない。所詮、勝手な都合とイメージだけで判断しているのだ。きっと言われた本人もそんな風に思っているだろう。

そもそも、普通の意味は何なのか?それさえも疑わしい言葉である。きっと意味のない言葉として、僕らは片付けているのだろう。


話しは逸れてしまったが、桃香に対して安っぽい女とか思わなかったし、桃香の魅力に気づいたことは僕にとって嬉しいことだった。

乱れた髪をなおすように、桃香は晴れ着を整えた。一人で着付けはできないと話していたので、緩めた帯を締めていた。そんな様子を見て、僕もファスナーを閉じて興奮冷められる気持ちまで閉じようとした。


「雪、まだ降ってるかな?今日はずっと降り続けるかしら」と胸元を直しながら桃香が聞いて来た。


「どうだろう」


さっきまで白かった息が、いつの間にか冷気を帯びていなかった。僕は階段下から見えるはずのない空を見上げた。

すると、桃香が寄り添うように、僕の腕を掴んで囁いた。


「行こ……」


潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く。


このままの気持ちが続いているなら、きっと、僕たちは同じ気持ちのまま歩むことになるだろう。


大人の成人式まで、まだ数時間もあった。


第19話につづく

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