第99話「世の中はコインが決めている」

 数日後、仕事を終えた足でスナックへ訪れた。ドアを開けると、ハナちゃんが既に来ていた。

「ヤッホー、今夜は店が休みなの。思う存分、話し合えるわよ」

「そうか。正論くんはまだ来てないんだ。珍しいなぁ、遅れて来ることはないのに」と僕が言ったとき、後ろのドアが開いて正論くんが現れた。

「よぉ、全員揃ってるな」

「今回、ハナちゃんは参加させないのね。やっぱり危険だから?」

「いや、特に危険なことはない。何故なら危険なのかもわからないからだ。ある程度予想して動くけど、チャンスは一度しかない。それだけは覚悟してほしい」と正論くんが言う。

 その一言がプレッシャーなんだよ。文句を言いたかったけど、まずは作戦を聞いてからにしよう。果たして、どうやって地下室へ侵入するのか?

「決行は明後日の夜。その日、工場は稼働していない。この時期生産自体が少ないからね。そこで問題なのは、どうやって工場へ侵入するかだ。ハッキリ言って、セキュリティに関しては完璧と言っていいほど、しっかりしている。普段仕事に入るときも、出入り口でカメラチェックがあるくらいだからね」

「そうなんだ。じゃあ、尚更どうやって侵入するのよ?見つかったら、絶対に管理会社へ通報されて警備員が来るんじゃないの」とハナちゃんの質問に対して、正論くんは澄ました顔のまま微動だにしない。

「鳥居くん、絵馬さんの部屋へ入ったことあるだろ?」

「うん、何度かあるけど。特にあの部屋は何もないよ」

「だろうね。でも逆に言えば、何でもない部屋だからこそ、手薄の可能性は高いってことだろう。だから君、絵馬さんの部屋に忍び込んでいてほしいんだ。勿論決行日の前日にね」

「はぁ!?もしかして、そのまま部屋で過ごして、工場へ侵入できるようにするのか!」

「そう。そしたら僕らは無事に工場へ侵入できる。防犯カメラの映像を切るのを忘れないでくれよ。これで少しは時間は稼げる。楽勝だろ」と正論くんにしては雑な作戦に思えた。

「わかったよ。何とか部屋で待機してみる」と僕は答えたが、かなり不安な上に成功するとは思えなかった。

 決行は明後日。ジッとしててもしょうがない。僕の役目は重要だったし、絵馬さんの部屋に忍び込まなきゃいけない。

 明後日まで時間はある。とりあえず打ち合わせも終わったので、僕はマンションへ帰って考えることにした。

こうして僕たちは明後日に向けて、工場の地下室へ侵入することになった。

第100話につづく