第44話「鳩が飛ぶのをみて
通話ボタンから手を離して、女性の顔をマジマジと見つめた。綺麗に整えられた眉毛が印象的な女性。女性にしては背が高く、モデル体型と言ってもおかしくない。笑顔を絶やしたまま、軽快な足音を立てて近寄って来る女性。この瞬間まで名前どころか、顔を見ても思い出せない。
だけど、相手の方は私のことをフルネームで呼んだ。と言うことは、私のことを知っていると受け取って良いのだろう。軽く会釈をしたあと、彼女が話し出すのを待った。
要件があるなら早く話して欲しい。こっちは親友に連絡しようと思っていたんだから。
「あの、何か?」と私の方が我慢できず話しかけた。
「ああ、ごめんなさい。私、華村純菜って言います。和泉さんと同じ高校で同級生だったの。覚えてない?」華村純菜と名乗った女性はそう言って、笑顔一杯で見つめてきた。
笑顔というのは警戒心を無くしてくれる。普段から人付き合いが苦手な私にとって、彼女の笑顔は不思議と私の心を癒してくれるようだった。
だから、思わず彼女に合わせて・・・・・・
「華村さん、え〜っと、確かクラスは違ったわよね」と私は思わず嘘をついてしまった。
「うん。クラスは違ったから話したことなかったわね」と華村さんの方も、嬉しそうな顔をしてくれた。
華村さんは高校時代の思い出を語りましょうと、今からお茶をしないかと誘ってくれた。この流れで断る理由なんてなかった。高校の同級生と出会えたこと。同じ思い出を語れることが何よりも嬉しかった。
この出会いがきっかけで、私と純菜は親友になるのだった。
そして場面は、現在の病室へ戻る。
三井巡査から知ることができた華村純菜の秘密。彼女が組織のリーダーと呼ばれていること。そして、鈴村真由という名前。大学時代を振り返ったとき、私の中で嘘みたいな発想が頭に浮かぶのだった。
もしも、もしも、彼女の存在があやふやだったら。
「人の記憶なんて正確じゃありませんよ。無意識のうちに美化したり、自分の記憶を人の記憶して植え付けることだってできる。華村純菜はあなた達の同級生でもなく、第三者なら全ての辻褄が合うと言うことですよ」と三井巡査はそう言って、カフェレストランで写っている彼女を見つめた。
「私は・・・・・・私たちは知らず知らずのうちに騙されていた。思い込みで華村純菜を同級生だと思わされていた。実際は、鈴村真由という全く知らない人間だったてこと!?」
「はい、その通りです。だから、そう意味では華村純菜という人間は存在していない。あくまでそれは仮の姿であって、鈴村真由という人間が裏で動いていたんです」
「何が目的で?」
「さあ、実際のところ鈴村真由の目的はわかりません。ただの犯罪ごっこと言えば、それまでですよけど」
三井巡査の話によると、三年前の夜の出来事がきっかけで調べることになったらしい。
三年前の夜の出来事と言えば、大神日和の孤独死。不思議と私を含めて、周りの人間たちは三年前の事件をきっかけに、歯車が狂い出してるみたいだ。そもそも、日和の孤独死自体がただの事故死じゃないと。
つまり、事件性がある。
「和泉さん、あなたに教えておきたいことがあります。三年前、大神日和は孤独死でこの世を去っています。そのとき、部屋に訪れた人間は、後藤さんと何人かの警察官と聞いてますよね」
「そう聞いてるけど。確か、三井さんが後藤の追ってる件に関係してると思って、連絡したんだよね」
「後藤先輩から、そんな風に聞かされていたんですね。それ違いますよ。先輩は自ら現場に行ってます。あの三年前の事件は、後藤先輩が仕向けたことなんです。これはこれまでに調べ上げた真実の話。木島さんから、和泉さんだけに教えるように言われています」三井巡査はそう言って、病室に置かれた椅子を足元へ引き寄せた。
そして、ゆっくりとした動作で座ると、私の方を見て真剣な顔になった。今から語られるのら三年前の夜の出来事。
果たして真実とは?
私は無意識のうちに唾を飲み込むと、三井巡査の語る真実に耳を傾けるのだった。
第45話につづく