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第8話「今日よりも明日が好き」

 喫茶店の常連客で、人間観察をしたら面白いだろう。そう言ってたのは相棒で、僕は興味もなく、その話について特に続けることはなかった。本来、僕は興味がなければ動くことはない。

 だから今回、雫が持って来た奇妙な写真も調査しようと思いもしなかったが、大変興味深いことを言ってきた。なんでも写真を手に入れたのは常連客からと。自称写真家の老人で写真の腕は確かだけど、世間的に名の知れた写真家ではない。

 言うなれば素人というわけだ。

「素人だけど、味わい深い写真を撮るのよ。私も何枚か見せてもらったけど、素敵な写真ばかりなの。その中の一枚に、これがあったから借りて来たの。ねえ、どう思う?これってさ、ホントにインチキかしら。私はそうは思わないの。だって、純粋に写真を撮ることに情熱あるおじいちゃんよ。そんな人がインチキな写真を撮るかしら?」と雫は説明して来た。

「その熱量は知らないけど、確かに興味深いな。長年写真を撮ること自体、その老人にとっては大切なことなんだろう。そんな人が雫を騙すようなことはしないと思うよ」

「思うけど、何よ?お兄ちゃんは興味沸かないの。もしかしたら、小説のネタになるかもしれないわよ」

「僕に調べて欲しいわけか。調べるのは良いけど、僕だって暇じゃないんだよ。それに調べるなら、老人と会ってみたいな」とここまで言うのにはわけがあった。その老人がどんな人物か気になったからだ。

 老人が写真に対して情熱を持ってようが、ひょんなことで逸れた道に行くことはありえる。どんな人だって過ちは犯すだろう。

 もしも、老人が偶然に映ったシーラーカンスをホンモノと言うならば、その真相が気になるところだ。

 ホンモノならばという話だけど。

「だったら、今から一休(喫茶店)に来ない。昼過ぎになったら、おじいちゃんも来ると思うよ。今日は月曜日でしょう。毎週月曜日と金曜日に来るの」

「偶然だけど、僕が行かない曜日に来てたんだね。わかったよ。一度、その老人と話をさせてくれる?」と僕が言うと、雫は嬉しそうに微笑んだ。

「私が仲介人になるから、お兄ちゃんは……私の兄ってことにしようかな」

「まあ、それは良いけど。ところで、おじいさんの名前は知ってるの?」

「当たり前でしょう。おじいちゃんの名前は山頭火さん。変わった名前でしょう。私はおじいちゃんって呼んでるけどね」雫はそう言ってソファから立ち上がると、先に行ってると告げて立ち去ろうとした。

 スキップをしながら立ち去る彼女。そんな彼女の後ろ姿に、僕は置き忘れた写真をもう一度眺めるのだった。そして一言、参ったなと呟いた。これがホンモノだったら面白いけど、僕はこの時点では全く信用していなかった。

 何故なら僕は自分の目で見ないと、どんなことも信じない性格だったからだ。

 だけどこのあと、僕は老人の語る話に大変興味を抱くのだった。

 第9話につづく