第23話「世の中はコインが決めている」
どうしても仕事に集中できない。手つきも危なっかしく何度か商品に傷を付けるところだった。そんな作業していたら、鬼班長の絵馬さんに注意される。いや、別室に呼び出されて説教だろう。僕と正反対で、絵馬さんは何も変わず僕に接していた。
危なっかしい作業をしたことで、キツイ言葉を浴びせてくる。
「鳥居くん、ちょっと部屋に来て!」と鬼の形相で言う。
「は、はい、すみません!」と僕は慌てて、絵馬さんの後をついて行った。
班長は個室を与えられており、この部屋に呼ばれると決まって、キツイ説教が待っていた。別名説教部屋と呼ばれている。契約社員たちは部屋に呼ばれるたび、この世の終わりにみたいな顔になる。
扉を閉めると、絵馬さんが背中を向けたまま立っている。後ろ姿から威圧感のあるオーラを纏っているのがわかる。僕の方から声をかけようかと迷ったが、叱られるとわかっていたので黙ることにした。
「鳥居くん、内側の鍵をかけて」と絵馬さんが言う。だが、その声に怒りは感じられない。数秒前の威圧感が嘘みたいに、絵馬さんは振り向いてニコニコしながら近寄って来た。
「絵馬さん。怒ってるんじゃ?」と僕が言った瞬間、絵馬さんは近寄って、僕の胸に飛び込んで抱きついて来るのだった。
「ううん。二人っきりになりたかったの。ねぇ、鳥居くん」と絵馬さんが甘えてくる。目はトロンとなり、厳しかった表情は無くなっていた。
そんな絵馬さんに安心したのか、愛おしい気持ちが湧き出ていた。二人っきりになりたいと聞いて素直に嬉しかった。
「なんか今日はすいません。ミスばっかりしてますよね」
「そうね。プライベートと仕事は区別しなきゃね。でも、説教をするという口実で君と二人っきりの時間をつくるんだから、私も人のこと言えないわ」
「そんな、僕なんかよりしっかりしてますよ」僕はそう言いながら、絵馬さんの秘密が頭の中に浮かぶのだった。
「あのさ、昨日の夜言いそびれたんだけど、教えてあげようか辞めた人間がどうなるのか」
やっぱり絵馬さんは知ってたんだ。だから部屋の内鍵を掛けた。まさか、こんなタイミングで聞くとは思わなかったけど、彼女のタイミングに合わせて聞くことにした。
「地下室に行って、そこからはわからない。とにかく辞める際は地下室へ連れて行かれるわ」
不思議と例の地下室へ繋がった。繋がったと言うことは、何か奇妙な運命があるのだろうか。僕は何かに巻き込まれようとしているかもしれない。
そう思えたのだった……
第24話につづく