第21話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」
冷凍庫から水を取り出して、桃香は僕に手渡した。生暖かい匂いをさせて、バスローブ姿からバスタオル一枚で部屋に戻って来た。少し毛先が濡れていたし、髪飾りの付いてた桃香の髪型は変化していた。
頭のてっぺんまで結っていた髪の毛は僕の予想より長かった。肩より長い髪の毛が妙に色っぽく思わせる。実際、桃香から匂う香りは、鏡の僕が浴槽の鏡から戻って来るくらいだった。
二言ぐらい交わしたあと、僕は手渡されたペットボトルを絨毯の敷かれた床へ落とした。僕からしたら嬉しい行動だったのだろう。ベッドの淵に腰を掛けた僕の横へ、桃香は並んで座った。
一歩手前のまた一歩手前は続いていた。サンドイッチの中身を大事にしていた僕たちは、美味しく頂くタイミングを待っていたんだね。
ほんの少し桃香の方が早かった。お互いに肩を掴んだとき、僕らは唇を重ねていた。触れ合う唇と唇が舌と舌を取り合い感情でダンスする。僕らのダンスホールは丸い大きなベッド。
転がるようにステップを踏んで、僕らはダンスを踊った。お互い横になりながら見つめ合いキスのダンスを踊る。僕らの中で余計な合図は必要としなかった。
バスタオル一枚で隠した桃香の胸元がはだけたとき、僕の手のひらは丸い胸に触れていた。夢中で触りながら、天井の鏡に映った桃香の裸をじっくりと観察した。
夏休みのアサガオを調べるように、葉っぱ一枚をスケッチしては観察した。
胸の形、乳首の色や乳輪の大きさを定規で測るように観察した。セックスに取扱説明書は存在しない。どのように触ったら悦ぶのか、自然と教わっていくのだ。
相手にも気持ちが伝わらないと発見はできない。言うなれば、阿吽の呼吸と思ってもらえばいいだろう。
バスローブとバスタオルを、脱皮するみたいに脱いだ。しわくちゃな生地は少しの水気を含んでいた。
じゃれ合う僕らの傍らで、白い生地は眠りについた。反対に僕らは真っ昼間からサンドイッチの中身へスパイスを加えた。外は太陽の光を遮るような雪雲に覆われている。
だけど、僕らの過ごす部屋は、鏡と雰囲気の良い空間が広がっていた。
呼吸と呼吸が、吐息と吐息の反復運動を始めて桃香の肌はオジギリソウみたいに、敏感に反応した。閉じた太ももに添って、指先はオジギリソウの閉じた股を解放した。
不自然でもなく自然と桃香はオジギリソウとなる。階段下のときもそうだった。桃香は決して拒むようなことはしない。
僕の気持ちを読み取って動くのか謎だけど、桃香は僕の操縦士となって動かした。僕と似て非なるアンダーヘアーがそこには存在していた。
柔らかい毛並みは綺麗に整えられ、僕を悦びの世界へと誘う。取扱説明書は僕と桃香が作成すれば良い。
甘い水飴よりも甘いもの口にする。どんな高級な食材を使っても敵わない甘味と旨味が舌へと浸透して伝わった。
無我夢中で舌を使って、舐めては吸った。初めての行為なのに、補助輪を外して一発で乗りこなせる奴みたいにこなすのだった。
「そんなに美味しいの?」
「えっ!?」
「だって、美味しいとか言うから、そうなのかなって……」
僕から見て二つの胸。その真ん中で恥ずかしそうな顔をした桃香が言った。無意識に僕は呟いていたのだろう。桃香の股の間で、今度は僕が恥ずかしくなった。
「海ちゃん、良いよ。もっと……」
きっと、僕らはこうなることを望んでいた。触れ合う悦びや快楽という気持ちに深く潜ったのだろう。ルールを守るとか守らないとか、そんなことは脱いだバスローブとバスタオルに手放したんだ。
サンドイッチの中身をタイミング良く食しては、至福の時間に浸透した。
一歩手前のまた一歩手前から、僕らは最後まで経験した。外は真っ昼間でも部屋の中で過ごすのは僕と桃香だけ。
潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く。なんて、不思議な世界へと歩むのだった。
第22話につづく