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第46話「真夜中の飛行船」

次の日もそのまた次の日も、神木恵梨香から連絡は来なかった。と言うか連絡交換をしていない。だが、不動産で顧客リストを見れば俺の連絡先ぐらいわかりそうだけど。

彼女が一人で行動すると言ってから、二日ばかり過ぎた。何かトラブルに巻き込まれたのか、それともトラブルを起こしたのか。

そんなとき、俺の携帯電話が久しぶりに鳴った。番号を見ると、公衆電話からの着信だった。誰からだろう?もしかして神木恵梨香かもしれない。仕事用の椅子へ座って携帯電話に出ると、いきなり息遣いの荒い声が聞こえた!?

「も、もしもし……せ、先生。私、私です。今、お時間大丈夫ですか?」

「え、えっ!もしかしてミホか!?」

「は、はい。時間がないので単刀直入に言います。その家は危険です。今から私が指定する場所に来て下さい。詳しい話はそこでします。お願いです。私を信じて下さい。メモを取って、は、早くして時間が無いんです!」

まさか、ミホから連絡が来るなんて思わなかった。しかも彼女は焦っているようだ。聞きたいことがあったけど、俺は状況を理解してメモの用意をした。

「良いですか?場所は世田谷区の南北寺という寺です。パソコンで検索したらわかると思います。待ち合わせの時間は、夜の八時でお願いします。境内で待ってますから」

プチッ!?

ツゥーツゥーツゥー……

十円玉が切れて時間切れになったのか、ミホからの電話は切れてしまった。

メモ用紙に書いた文字を見つめたまま俺はしばらく椅子から立ち上がろうとしなかった。明らかにミホの様子はおかしい。しかも、わざわざ公衆電話から連絡を寄越して来るのも不自然だ。

それに彼女はハッキリと、『その家は危険です』と言ってきた。どうやらミホは、この家の秘密を知っているみたいだ。

何故知っているのか、まったくわからないけど、とにかく彼女の身に何かあったに違いない。頭の中で考えたのは神木恵梨香だった。最悪なパターンとして、神木恵梨香がミホに近づいた可能性がある。

この二日間、神木恵梨香から連絡が無い。そして、彼女なら何となくミホの居場所を探すことが可能だったからだ。不動産屋に勤めていることもあったし、大体が彼女一人で行動すると言っていたことも関係していた。

俺の中で不安が大きくなり、今すぐ不動産屋に連絡をしてみようかと考えてみたが、早とちりの行動が仇となって、問題が大きくなるかもしれない。

そう考えて連絡することは踏みとどまった。

とにかく今夜、ミホの指定した南北寺へ行ってみよう。それしか状況を確認できるすべはない。俺は早速、インターネットで世田谷の南北寺を検索して場所を確認した。

ネットの情報だと、地元の人だけが知っているような神社っぽい。ここを選んだ理由も知りたかったが、今は待ち合わせの時間を待つしかないのだろう。

俺は家から一歩も出ず、待ち合わせの時間が迫った一時間前に出かける支度を始めた。

俺の家からだと、駅前のバス停から四十分くらいで到着する。そしてミホの待つ、世田谷区の南北寺へ向かうのだった。

第47話につづく

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