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第39話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

ポニーテールが揺れると、彼女は結び目を外そうとした。僕はその手を止めに入り、首を横に振った。ただ単純にそのままの姿が見たかったからだ。

あの夜に出会った見知らぬポニーテールの女の子。彼女と似ても似てないポニーテールの女の子。あの夜の続きを再現するみたいだった。


北城美鈴が言った言葉の意味さえ、今の時点ではわかっていない。声に覚えがあるかないか彼女の問題であって、僕には関係ないとさえ思っていた。

いや、この状況でそんな風に思っていたかもわからない。これは、雛形朋美から聞いた話しを振り返っているに過ぎない。北城美鈴の胸の形もアンダーヘアーの生え方だって、目覚めたときの記憶を頼りにしている。


だから、僕が彼女のブラウスや下着をどうやって脱がしたなんて、僕の勝手な想像に過ぎない。シャワーを浴び終わって雛形朋美が戻ったとき、僕が彼女の秘部をオーラルする姿からの映像しか知らないのだからーーーー


『ここからはリアルな体験だったわ』と雛形朋美が語りながら言った言葉である。

フローリングへ倒した北城美鈴に、僕が秘部を美味しそうに舐めていた。
そんな僕の背後から、雛形朋美はバスタオルを脱いで、僕の肩に手をそっと添えた。

思考は思考でなくなり、性欲に飢えた獣みたいな顔で振り返る。雛形朋美はスレンダーな身体に、豊満な胸の持ち主だった。


「私が先に予約したのよ。その子は後回しでいいんじゃない」


結果的、僕は北城美鈴とセックスはしなかった。それだけが救いだった。


だが、雛形朋美とは最後まで行為を行った。それについて、雛形朋美はさほど気にしていなかった。彼女にしたら単なる大人の付き合いなんだろう。

話終えると、彼女はそんな風に僕に向かって言った。それとは別に、雛形朋美から聞かされた言葉に驚いた。


『あなたが参加した大人の成人式について教えてちょうだい』とーーーー


何故、雛形朋美が大人の成人式を知っているのかわかった。

北城美鈴が昨夜、雛形朋美に話したからだ。つまり、彼女は北城美鈴はあの日の夜、大人の成人式に参加した女の子だった。

この出来事をきっかけに、僕は生き方を変えることになるだろう。この先、待ち受ける場面場面に、僕は少しだけ汚れた指先を見つめることになるのだった。


イメージという印象は、シミのついたシャツに似ている。だから無駄に話さなかったし、近寄ろうとしなかった。一見、取っ付きにくい印象で冷たい女だと思っていたからだ。

もちろん、そんな風に印象を与えたのは、彼女自身だと言った。それは人より劣っているからだと自己分析していた。無口で会話をしても冷たく返す。そんな第一印象を、相手に与えたら誰だって近寄りにくい。


シミのついたシャツに似ていると言えば、それはそれでそんな風に思えた。だけど、何かのきっかけで人は慣れ合い、何かを破壊して、寄り添い触れ合うことに抵抗がなくなる。

僕の中で、雛形朋美の印象は変わり、こうして布団の中で交わりをしているのだ。朝の光を拝むこともなく、僕たちは寝ていた。雛形朋美のアパートに訪れた日、僕は朋美の部屋にそのまま泊まった。

これも大人の遊びだと、朋美は普通に言っていた。目が覚めたとき、僕は化粧の落とした朋美の寝顔をしばらく見つめていた。

アイラインを落とした朋美。化粧をした顔よりも優しい顔つきだった。キツめの印象が、あまりにも焼き付いていたからだ。


朋美は寝返りをして、僕に背中を見せた。目を覚まして、ボソボソと何かを言っている。そして、僕に向かって時間を聞いてきた。

無くした腕時計は結局、朋美のアパートに置き忘れていた。だから、僕は枕元に置いた腕時計で時刻を確認した。


「もうすぐ一時になるよ。そろそろ起きようか」


「そうね、少し濃い目のコーヒーと軽く何かを食べましょう。お腹が減ったわ」朋美はそう言って、再び寝返りをして僕の方へ顔を見せた。

その顔に優しい微笑みが見えた。僕は朋美の上半身へ手を忍ばせた。


「ねえ、海野くんって相当変わってるかもね」


「どうして?」そう言って、僕は朋美の胸を触った。


「だって、私に向かって何回も美味しいって言うのよ。そんな人は始めてだわ」


桃香と同じことを言われた。僕の癖なのか、思ったことを素直に呟いてしまう。正直な気持ちを言ってしまえば、僕は朋美の胸に夢中だった。

見知らぬポニーテールの女の子と同じくらい朋美の胸は大きかった。桃香の胸と比べてしまっていた。しかし、それは満足していないとか、そんな類いの気持ちではない。

僕の中で感じる印象を、ハサミで切り取った気持ちなんだ。


「君が私の胸を好きなのはわかった。だから、好きなだけ触っても良いわ。でも、私はお腹が減って今にも死にそうなの。それに、シャワーだって浴びたいわ。それでも君はしたいの?」と朋美は上半身を起こして訊ねた。


「その意見に従うよ。僕もお腹が減っている。それに、少し肌寒いから服も着たいかな」


朋美は笑って、僕の唇に軽くキスを重ねると、立ち上がってシャワーを浴びに行った。

裸の朋美を後ろから眺めて、僕はスタイルの良い朋美をいつまでも想像していた。服をかき集めて、僕はシャツとズボンを履いた。

二月も後半を過ぎようとしていた。これから少しずつ暖かくなるだろう。僕はこれからのことを考えては、明日が見えなかった。


潮彩の僕たちは宛てのない道を歩くーーーーと心の中で呟いた。そして、彼女のことを考えた。明日のバイトは北城美鈴と一緒だ。

どんな顔して会えば良いのか?そんな想像と不安を、僕はかき集めることしかできなかった。


第40話につづく


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