第29話「世の中はコインが決めている」
もう一度写真を見ては考える。十年前に弓子さんは絵馬さんと知り合う。そして、その頃と容姿に変化がない絵馬さん。幾ら若く見えたとしても、弓子さんと変わらない年齢だったら目の前に居る弓子さんと同じくらい歳を重ねるはず……
「ねぇ、そんなに若い頃の私を気に入った?」と弓子さんが隣に座り込んで、僕の肩にもたれかかるように寄り添った。
「えっ、いや……その。若い頃も素敵ですけど、今の弓子さんはもっと素敵ですよ」と僕は誤魔化そうと、弓子さんの機嫌を伺うように言葉を選んで発言した。
だが、そんな発言が裏目に出るとは思わなかった。弓子さんが目を細めて、さらに距離を詰めるのだった。目と鼻の先まで弓子さんが迫って来る。タンクトップの胸元が迫るみたいに。
「ずっと見てない?」と弓子さんは言う。言葉の意味はわかったけど、僕は無意識に視線を下ろして胸元を見てしまうのだった。
「ねぇ、はじめくんは胸の大きい方が好き?」
「な、何を言ってるんですか!?」
「何照れてんのよ。質問に答えなさい」
「き、嫌いじゃないですけど……」
「そうよね。男って胸が大きい女性を見ちゃうでしょう。はじめくん、ずっと見てるんだもん」弓子さんはそう言って、僕の手首を掴むとタンクトップの上から僕の手のひらを胸へ触れさせた。
手のひらに感じる柔らかい感触。十年前の若かった弓子さんと違う、今の弓子さんが笑みをこぼして僕の瞳を真っ直ぐに見つめた。
ここへ来たときから期待してたかもしれない。女の人が一人暮らしの部屋へ招いた時点で……
一昨日の夜、僕は他の女性と一夜を共に過ごした。そして今夜、僕はまた別の女性と一夜を共に過ごそうとしていた。
第30話につづく