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第83話「世の中はコインが決めている」

 せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。

 すると、テーブルの携帯電話が鳴り慌てて洗濯機の前から早足で部屋へ戻った。知らない番号だったけど、もしかしてハナちゃんかもしれない。

 そう言えば、彼女と番号交換をしていなかったな。

「はい、もしもし」電話に出ると、数秒ほど間があった。

 間違い電話?いや、かけてきた相手の息づかいが微かに聞こえる。どういうわけか話すのを躊躇っているみたいだ。

「もしもし、どちら様ですか?」

「あの……私。露子です」

「えっ、露子。露子なの!?」と僕は驚いて大きな声を出した。

 どうして露子が連絡してきた!?数年ぶりに聞いた声は、少し元気そうじゃなかった。しかも、連絡をしたことに躊躇いを感じる。

 でもよく考えたら、露子自身は僕に連絡すること自体は気まずいに決まってる。何故なら一方的に別れを告げて、会うこともしなかったのは露子の方なのだから。

 きっと露子は罪の意識があるだろう。突然に一方的な別れ方をしたから、今もフラれた理由がわかっていない。当時、僕たちは付き合って三ヶ月目で順調な交際をしていた。

 それなのに突然の別れを告げられた。

「どうしたの驚いたよ。何年ぶりだろう。元気にしてた?」

「う、うん。なんとか……鳥居くんは元気だった?」

「まぁ元気だよ。何かあったの?連絡をくれたってことは……」と僕は聞きつつ、鳥居くんと呼んでくることが少々ショックだった。

 別れた男女の関係って、別れた瞬間から他人行儀になるのだろうか。

「あの、実は相談って言うか。話さなきゃいけないことがあって……」と露子の声は沈んでいた。

 声を聞く限り何かに怯えている節もあったけど、僕はダメ元で部屋へ来ないかと誘ってみた。久しぶりに声を聞けたこと、それに本音は会いたいと思ったからだ。

 迷っているのか露子は返事をしなかった。ここは辛抱強く待ってみることにした。会って話したいと思ったのは、別れた理由を知りたかったからだ。

 だけど、どうして露子は無事なのか。縁日かざりは僕に近寄る女性を許さないはず。だったら何故、こうして露子は無事なのか?

 もしかしてあの頃、縁日かざりはサイコパスに目覚めていなかった?その可能性はあるが振り返ってみると、廃墟へ行ったときから縁日かざりは僕にアピールをしていた。

 あの廃墟がキッカケで、僕と露子は付き合うことになった。当時、僕と露子が付き合ってることは周囲の人間は知っていた。

 神宮寺や倉木先輩にも知られた。だったら、縁日かざりが知らないわけがない。

 でも、露子は無事なまま大学生活を過ごしていた。付き合いは三ヶ月で終わったけど、嫌でも大学で見かけることはあった。そのとき、僕は二人の姿を見ている。露子と縁日かざりが仲良く話してる姿を……

ここにきて、腑に落ちないことが判明した。麻呂露子と縁日かざりは特別な関係なのか!?

それとも何か秘密があるのか……

第84話につづく

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