狭倉朏(はざくら・みかづき)

アマチュア小説を書いていたら、書籍化が決まりました。

狭倉朏(はざくら・みかづき)

アマチュア小説を書いていたら、書籍化が決まりました。

最近の記事

夏、雨、喫茶店

 突然降り出した雨に喫茶店に駆け込んだ。  タイトスカートのポケットからハンカチを取り出して最低限の水滴を拭ってから、席に案内してもらう。 「えーっと、アイスコーヒーで」  メニューをろくに見ずにそう頼む。まさか喫茶店にアイスコーヒーが置いていないこともないだろう。 「かしこまりました」  季節は夏、ただでさえ外が暑くて汗をかいていたところにこの雨とは、運がない。  私はぼんやりと外を見る。ガラスに雨が流れていた。  おそらくゲリラ豪雨というやつだろう。その内やむはずだ。  

    • 偶(たまたま)の出会い

      第212回 短編小説新人賞 もう一歩の作品 「翠ちゃん、髪伸びたわね」  金曜日、リモート会議の後の個通で上司にやんわりとそう言われた。  言われてみれば家に閉じこもって長らく髪を切っていなかった。いくらリモートワークで社内の人間としか接しない業務とはいえ、社会人としては目にあまるレベルの髪の乱れっぷりだったのだろう。  上司はいつもこういう回りくどい注意の仕方をする。同僚にはそれをねちっこいことをすると嫌う子もいたけど、私は上司のそういうやり方が存外嫌いじゃなかった。相手

      • 冬の人魚

        第208回短編小説新人賞 もう一歩  流氷の合間、冷たい海の中へと沈んでいく。  口から空気が抜けて、四肢から力が抜けて、命から魂が抜ける。  最初は、身を切るような冷たさに凍えた。しかし気付けば冷たさすら感じなくなって、石(いし)坂(ざか)柘榴(ざくろ)は海の中から空を見上げていた。太陽の光が水の向こう、遠くに見えた。自分は死ぬのだな、彼女はそう確信した。  自分がいつか死ぬことについて、考えたことがないものなどいるだろうか。少なくとも柘榴は考えたことがあった。しかしこの

        • はざくらみかづき、です

           よく読み方を聞かれます。読みにくい名前をつけたおのれが悪いのです。  読めないので基本的にはアイコンからちょうちょと呼ばれています。  狭倉朏です。はざくらみかづきです。  もちろんペンネームです。  検索してみても狭倉さんというお家はないようです(あったらごめんなさい)。  朏は人名に使える漢字ではありません。  名前の由来は葉桜三日月。  花に嵐、月に叢雲花に風。  そういうあまりいいとはされないものの流れの中に、盛りの過ぎた花と欠けた月もあると思い、葉桜と三日月から

        マガジン

        • 短編小説
          4本
        • お題
          1本
        • 投稿小説のまとめ
          2本

        記事

          完結した中・長編小説へのリンク

           すでに完結した短編小説以外へのリンクです。 「クライクイノ」 処女作。約3.5万字の中編。  全てを喪失した少年と暴食の少女の伝奇系ボーイミーツガール。  一話に全労力を注ぎ込んでしまい、今読むと竜頭蛇尾感がある。  第8回ネット小説大賞(旧なろうコン)1次通過(2次落ち)。 小説家になろう:http://ncode.syosetu.com/n9898fq/ カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054890134642 エブリス

          完結した中・長編小説へのリンク

          小説を投稿しているサイト一覧

           せっかくnoteを開設したので自分が投稿しているサイト一覧、及び作品一覧をまとめていこうと思います。増えすぎたので……。  まずは各サイトのマイページとサイトごとの戦績。 「小説家になろう」 https://mypage.syosetu.com/784100/ 戦績:第8回ネット小説大賞(旧なろうコン)二次落選 https://www.cg-con.com/topics/11422/ 「カクヨム」 https://kakuyomu.jp/users/Hazakura_

          小説を投稿しているサイト一覧

          失恋の誉れ

           かつて好きだった男の死体が川から上がった。 「……白髪、増えましたね、紫先生」  清潔なベッドに横たわる遺体を眺めながら、私は力なく呟いた。  すでに様々な処置のなされたあとの遺体はとても綺麗だった。  死んでいるなんて嘘みたいだった。  さすがに記憶に残る紫先生の顔と比べると老いを感じさせた。  しかし死んで当然という年齢にも見えない。  この人はそういえばいくつになるのだろう。  私はそれすら知らないことに気付かされた。 「争った形跡なし、近くの橋から遺書が発見