トイレに行くための途中交代
お腹が弱い。
大人になった今も大概だけど、子供・学生時代は今のよりもさらに頼りなさすぎるお腹をしていた。
授業中に手を上げて発表した回数よりも、すっと席を立って先生のところに行き「トイレ行ってきていいっすか…?」と伝えた回数の方がはるかに多い。週に1回はそんなことをしていたし、授業時間外も含めると大体週3は男子トイレの個室を占領する時間があった。
お腹からのメッセージが届くタイミングは選べない。そして、たいてい「今は許してよ」というタイミングで通知が届く。まだ授業中なら教室から出て行く時と帰ってくる時の、それぞれ一瞬照れるだけでなんとかなる。
全校集会の途中になるとかなりきつい。僕が通っていた小中学校では、全校集会は身長が低い順番で並んで座っていた。当時は小柄で、前から5番目あたりが定位置だったので、全校全クラスの前から6番目以降に座っている人の目線を浴びながらトイレに行くことになっていた。
それでもまだ、これなら自分が見られるだけで周りに何か影響が出ることはない。
だけど、野球の試合中となるとそうはいかなかった。
小学1年生から中学3年生までの9年間、ずっと野球少年だった。野球は、自チームが攻撃中かつ自分の打順が遠い時は問題なくトイレに行く時間が取れる。なので、特に影響が出ないトイレタイムは何度もあった。しかし、そうはいかないタイミングももちろんあった。
そうなったのは、記憶にある限り3回。
まずは、小学4年生くらいの頃。その試合は一番サードでの出場。初回の打席に入った時点でお腹が痛かった。ヒットを打つことなんか全く考えていなかった。むしろトイレに行くためには、塁上に残るわけにはいかない状況。向かってくるボールを、ただ当てるだけに特化したスイングでピッチャーの足元へ届けた。
簡単にアウトになりベンチに戻った瞬間、監督に「お腹痛い。トイレ!」と伝えてベンチから抜け出した。なぜか駐車場にしかトイレがないグラウンドだったので、攻撃が終わるまでに往復してくるのは不可能ということで、トイレから戻ってきた時には交代していた。オープン戦でもなかなかない短期交代劇になった。
次に、中学2年の試合中。これも同じようなシチュエーションで、攻撃中にお腹が痛くなり始めた。この時は打順は回ってこなかったけど、すでにツーアウト。今からでは間に合わないことはわかっていたけど、守備についたらたらもっと大変なものが間に合わなくなってしまうこともわかっていた。顧問に「すいません。腹が痛いので、変えてください…」と伝えて、トイレへ向かった。小学生の頃と比べると、冷静かつ大人な立ち振る舞いができるようになっていた。
最後は、また小学生に戻る。5年生か6年生のどちらかだったと思う。この時は、守備中にやってきてしまった。我がチームはそこまで強くなく、さらに少年野球はフォアボールやエラーも多いため、守備の時間がいつも長くなりがちだった。セカンドを守る僕は、ソワソワが止まらない状態になっていた。そして、3つのアウトを取るまでの我慢は無理だと判断し、二塁塁審をしていた友達の父さんにタイムをかけてもらった。「お腹痛いからトイレ行ってきます」そう伝えて、ベンチには戻らずそのままトイレへ走って行った。
そのあとどういう流れかわからないけど、ベンチに戻ってきた時にはチームメイトが交代してセカンドに入り、試合は進行していた。野球のルール上一度交代した選手の再出場はできないけど、練習試合ということもあって、再び出場することに。次の回からしれっとショートで復帰。9年間の野球人生で、再出場を果たしたのはこの試合だけだった。
野球以外にも、たくさんの修羅場なトイレ時間を乗り越えてきた。大人になった今も、トイレにはとてもお世話になっている。とりあえず、まずは明日の朝起きたらトイレを磨こう。