記憶を紡ぐ糸 第4話「困惑」
友一さんが平嶋さんを家まで送り届けて帰ってきた。私はあれからずっと、頭が混乱している。階段で倒れていたあの時に、私は携帯電話を持っていなかった。自分は携帯電話を持っていないものだと考えていたから、あの光景のように慣れた手つきで操作しているのは到底考えられなかった。
私はそのことを友一さんに話した。彼も、困惑した表情を見せた。
「それって、若葉ちゃんは携帯を持っていたってこと?」
「分からない……。でも、そう考えた方が自然だと思う」
友一さんは唸りながら考え込む。私はその光景のことを詳しく思い出そうとするのだが、頭をハンマーで殴られるような激痛が襲ってきて、思い出すことが出来ない。
「明日、若葉ちゃんが住んでいたアパートに行ってみないか? 俺も仕事は休みだし、一緒に行くよ」
友一さんがそう提案した。もしかすると、あの日はアパートに携帯電話を忘れてきただけかもしれない。そして、あそこには何か私の記憶に関する手掛かりがあるのではないかと思った。
「そうだね。アパート行けば、何か分かるかもしれないし。ありがとう、友一さん」
私はこの三か月、友一さんだけには自然に接することが出来る。誠実な彼には、全幅の信頼を寄せられるのだ。