乱反射 11.
休日になり、私と姉は犯行現場に向かうことにした。私は事件以来、現場には一度行っていた。その時は血痕が生々しく残っていて、近くには花が供えられていた。姉曰く、あの時は思い出せないくらいトラウマとして残っているらしく、何も思い出さなかった。一定の時間を置いた今なら思い出すかもしれない、そんな姉の提案もあり再び行くことにした。
犯行現場は駅とは反対方向の場所にある。私は普段通ることが無い道だ。私たちは姉の帰宅経路を辿って、家から歩いていく。少し歩いた場所にあるコンビニ前の信号で青になるのを待つ。すると、隣に黒いスーツを着た見覚えのある若い長身の男が止まった。それは捜査一課の大野だった。
「おや、あなたは真野さんの妹さん。偶然だね」
大野は私にすぐ気付き、話しかけてくる。どうやら上司の滝川はいないようだ。そのせいか、心なしか彼の表情が穏やかに見える。少し口調が馴れ馴れしく感じるのもそのせいだろう。
「この辺で捜査してるんですか?」
「そうだよ。ちょっとは手掛かりになりそうな情報も掴むことが出来てね」
大野は捜査に手掛かりがあったそうで、どこか上機嫌だ。そして、大野は提案を持ちかけた。
「そうだ。そこのコンビニで休憩しない? ちょっと疲れちゃってさ。何か飲み物おごるよ」
この上機嫌な様子なら、何か有益な情報を手に入れることが出来るかもしれない。そう思った私は、大野の提案に乗ることにした。
コンビニで大野は何でも買って良いと言ったので、私は缶コーヒーをおごってもらった。私はブラックコーヒーが好きなので、今もそれを買ってもらった。大野は野菜ジュースを買っていた。彼曰く、野菜不足を気にしているとのことで、野菜ジュースはよく飲んでいるらしい。
コンビニ前の喫煙所で私たちは話すことにした。大野は私に了解をもらってから、胸ポケットから煙草を取り出してライターで一本に火を点ける。
「何か、手掛かり見つかったんですか?」
私は野菜ジュースを片手に持ち煙草をふかす大野に聞いてみた。
「うん、とても貴重な証言を得たんだ。聞きたい?」
「私に言っても大丈夫なんですか?」
「美月さんには特別にね」
大野は口から煙草の煙を出した後、野菜ジュースを口に流し込む。笑みが零れていて、どこか自慢げだ。
「実は、この近辺で怪しい男の目撃証言があったんだ。深夜によく徘徊していて、ここにもよく出入りをしていた。犯行現場は男の家までの通り道らしい。俺はその男がクロだと睨んでいる」
大野はその男が犯人であるという線で、捜査を進めていくそうだ。滝川さんに良い報告が出来そうだ、と彼は嬉しそうに話した。
「ところで、美月さんはどこかに出かける予定なの?」
大野は煙草の火を灰皿で消し、聞いた。
「今から、姉が殺された現場に行くつもりなんです。姉に手を合わせに」
「そうなんだ。俺たちが犯人を絶対に捕まえるから、美月さんは心配しなくて良いよ。何かあったら、俺に相談してよ」
大野は携帯番号とラインIDを教えてくれた。もうすぐ終わらせるから、大野はそう言って私と別れた。
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