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僕はゴーストライター Story03.

「圭吾。鈴ちゃんが来たわよ」
 玄関から母さんの声が聞こえる。朝の身支度を終えて、僕は部屋を出る。脚本でストーリーの持って行き方に苦労して、深夜まで脚本を書いていた。それから宿題を済ませたので、睡眠時間は三時間ほど。本当に眠い。
「おはよう」
 玄関では江藤鈴奈(えとうすずな)が待っていた。鈴奈が朝に家に来るのは、日課になっている。僕は母さんが見送るのを背に、待っていた鈴奈と一緒に家を出る。
 鈴奈は僕の家の隣に住んでいる幼馴染。同い年で、高校も同じ、クラスまで一緒だ。家族ぐるみで仲が良く、僕らも幼い頃から一緒に遊んでいた。創作の世界ではよくある幼馴染属性というやつだ。しかも、相当ベタな類だ。恋愛ゲームなら間違いなくメインヒロインを張れる。
「圭吾、遅くまで起きてたんじゃない? すごく眠そう」
 鈴奈は僕の顔を覗き込んでそう言った。僕らは高校まで歩いて登校する。家が隣の鈴奈と行くのが、僕の朝の日常風景だ。
「ああ、宿題に手間取っちゃって」
「そんな多かった? 私はすぐやっちゃったから。もしかして、小説とか書いてたんじゃない?」
 ほぼ正解に近い。さすが幼馴染、勘が鋭い。だが、僕が書いていたのは脚本だ。
「最近、小説は思い付かなくてね。考えてはいるんだけど、最近スランプかな」
「そうなんだ……。また書けたら、私に読ませてよ。批評してあげるから」
「うん、一番に読ませるよ」
 鈴奈は僕が書く小説が昔から大好きなようだ。いつも僕が書く小説を心待ちにしていて、楽しそうに読んでいる。
「待ってる。私は綾瀬圭吾のファン第一号なんだから」
 鈴奈はそう言って、微笑んだ。鈴奈は結構モテる。ルックスは幼馴染の僕から見てもかなり良い方だ。学年でも、鈴奈ほどのルックスを持つ女子はそういない。クラスでもマドンナだ。だから、一緒にいる僕が嫉妬の対象になることも少なくない。でも僕は気にしないようにしている。いちいち気にしていたらきりがないからだ。
「そういえば、幸福な日常って面白いよね」
「そうなんだ。ありがとう」
「何で圭吾がお礼を言うの?」
 鈴奈は不思議そうに僕を見る。
「いや、身内が褒められるのは嬉しいなあって思って」
「やっぱり、柊介おじちゃんって天才だよね。あんなに引き込まれる話書けるんだもん」
(それ書いてるの、俺ですけどね)
 僕は心の中で呟いた。
「もう次回が楽しみで待ちきれないの。圭吾は続き知ってるの?」
「いや、俺も知らない。親父、脚本なんて誰にも見せないし」
(がっつり知ってますけどね! それ書いたの俺だから!)
 何だか親父の事を考えるだけで腹立たしくなった。鈴奈は「そうなんだ。まあ、楽しみは取っておかないとね」と言ってふふっと笑った。

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