納得しないエネルギーがいつか… 【30分de書評】書名:炉辺の風おと 著者:梨木香歩
「諦めの2年」というに煮え切らないがさっぱりした記事から早3年… 仕事とも全く関係ない、NHKの番組”風”の書評です。短時間で名著を読める”風”のタイトルですが、短時間で書いた書評なので、細かいことはご愛嬌というニュアンスです。
この本は、2018年~2020年にかけて作家の梨木香歩さんが八ヶ岳に買った山小屋での暮らしを中心に綴ったエッセー集です。
これから買う山小屋がどれだけの愛情を注がれてきたものなのか、小屋の備品や状態を見るとすぐに気づく。物語作家は、ひとつひとつの物事に物語を見出す天才なんだと思う。山小屋へ定期的に遊びに来る鳥やリスの描写もまたなんとも可愛らしく、人と人ではないものにはあまり明確な境界線がないような気分になる。
時系列順に記事が並んでいるので、梨木さんのその時々の暮らしや関心事の変化も見えるのもまた面白い。父親の病院でのトラブル、コロナ渦での非常事態宣言など、心穏やかではいられない出来事も含めて書かれている。
本を通して印象に残ったのは、梨木さんなりのもやもやとの向き合い方だ。日々の暮らしの中、あれは何だっけ?なぜこうなんだろう?とすぐには理解をすることが出来ない”もやもや”と出会うことはがたくさんはずだ。
そういった疑念を解かずに日々を送ることは「葛藤を抱えて生きるようなものだから、もやもやと苦しくもあり、力も要ること。」なのだが、「その納得しないエネルギーが、いつか時宜を得て、すべてのことを明らかにすると信じている」。
実際に本書では、暮らしの中で生まれた梨木さん自身のもやもやが山小屋をきっかけにした出会いを通して、解決していく過程が細やかに描かれていた。梨木さんのような細やかで生き生きとした心情描写は私にはできないが、もやもやをスルーせずに向き合う姿勢ならマネできる気がする。
もやもやしながらも、日々を生きるすべての方へオススメの一冊です。