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#89「オープン化: 技術は秘匿せずに世界を取れ!!QRコードからOpenAIまで、オープン戦略の勝者たち(AIエージェント時代の未来を切り拓く16の必修DXコンセプト#5)」
デデデータ!!〜“あきない”データの話〜第50回「オープン化 - デジタルにおけるオープン戦略の重要性-(DXコンセプト5)」の台本をベースにnote用に再構成したものです。基本的なDXコンセプトを学んでいくために構成に変更しています。
AIエージェント時代の未来を切り拓く16の必修DXコンセプト#5 ="オープン化"
オープン戦略という言葉を耳にしたことがあるだろうか。製造業でもIT業界でも、近年は「どこまで技術をオープンにするか」が事業成長やシェア拡大のカギになっている。私もDX支援の現場で、多くの企業が「知財は取るだけ」「技術は秘匿化が前提」という固定観念を持っていると感じてきた。しかし、デジタル社会においては、オープン化こそが市場を爆発的に拡張し、競合他社を巻き込みつつ自社のシェアを最大化する武器になる。ここでは、QRコードやBlu-ray、Dolby Atmosなど身近な事例から、AIの世界で最前線を走るOpenAIまで、オープン戦略にまつわる実例を整理しながら、なぜこれがDXの必須テーマなのかをまとめたい。
第一部:身近なオープン化を知ろう
●QRコード:普及の陰にある戦略
QRコードはもともと日本のデンソーウェーブが自社の物流管理用に開発した。特許を取得したが、あえて「無償で使える形」にして誰でも発行できるようにしたところ、一気に世界中へ広まった。今やスマートフォンをかざして決済する場面が当たり前になっているが、QRコードをオープン化しなかった場合、ここまで普及することはなかっただろう。
デンソーウェーブはハンディターミナルなどの「読むための機器」で収益を得るビジネスモデルにシフトした。まさに「コア領域(読み取り端末)で利益を出すために、QRコード自体はオープン化」というオープン&クローズのハイブリッドだといえる。
●Blu-rayディスク:標準化フォーラムと安価なライセンス
Blu-rayディスクはソニーとパナソニックが中心となってフォーラムを立ち上げ、世界140社以上を巻き込みながら国際標準にしていった。容量が大きく、高画質な映像に対応可能という技術的メリットを前面に押し出しつつ、ライセンス料は安価に設定し、参加企業がブルーレイを積極採用できるような仕組みを作った。この結果、DVDに代わる次世代ディスクとして一時代を築いたわけだが、そこでの収益源は各社が製造・販売するプレーヤーやレコーダー、関連機器だった。
デジタル時代の事業設計では「どこを標準化(オープン化)し、どこを秘匿化して稼ぐか」がもっとも重要だという典型例である。
第二部:オープン化とデファクトスタンダード
オープン化の本質は「技術や評価基準を広く普及させ、業界標準(デファクトスタンダード)を狙うこと」にある。
自社だけが抱え込むのではなく、あえて公開し、多くのプレイヤーを巻き込むことで市場の総量を拡大する。結果として、その技術を持つ企業がNo.1シェアを取れる可能性が高まる。
ただし、技術を開示すると模倣リスクがあるため、日本企業にはなかなか抵抗感が強い。多くの企業で「とりあえず特許を出してクローズにしておけば安全だ」という発想が蔓延している。しかし、それがかえって大きな市場機会を失うケースもある。
最近ではゲーム理論の観点から「先にオープンにしたほうが、後追いでオープン化されるより有利」という見方まである。もしライバルが先に規格化してしまえば、自社が追従するしかなくなるからだ。
第三部:オープン戦略の成功例いろいろ
●Dolby Atmos:ライセンスモデルの巧みさ
Dolby Atmosはドルビー社が開発した立体音響技術で、映画館からスマートフォン、PC、音楽ストリーミングまで幅広く対応している。ここでの戦略は「技術は自社が厳密に管理しながら、対応機器やサービスにはライセンス供与を行い、世界中で使えるようにした」点だ。
ロゴや商標を統一し、対応デバイスは50億台を超える規模にまで広がった。結果として、ドルビー社だけでなく多くのメーカーが収益を得る“エコシステム”が生まれ、同時に他の競合技術を排除できる強固な標準を確立した。
●NVIDIA CUDA:GPU市場で95%シェア
NVIDIAのCUDAは、GPUによる並列計算を容易にするライブラリ群だ。これをオープンに公開することで研究者や開発者を一気に取り込み、AIブームの到来も追い風となって、GPU市場で圧倒的シェアを獲得した。
他社GPUを使うために新たな環境構築をするより、CUDAに乗ったほうが開発効率が高いからだ。こうしてユーザーのロックインを実現し、自社ハードウェア(GPU本体)の売上を飛躍させている。
●BluetoothとUSB-C:規格をみんなで作る
Bluetoothはエリクソンが中心となり、複数企業で策定した無線通信規格だ。元々の特許収入を狙うより、業界全体でライセンスを共有することでデバイス対応を拡大させ、現在では年間50億台以上がBluetooth機能を搭載する。さらにUSB-Cは欧州連合(EU)が「2024年までに全電子機器でUSB-Cポートを義務化」する方針を打ち出したことで、AppleがLightningを捨てるに至った。規格そのものが規制として強制力を持つ形が「究極のオープン化」と言える。
第四部:オープン戦略のポイント
オープン戦略の検討には、以下の7つのチェックポイントが役立つ。
市場No.1を目指すか
シェア拡大を最優先するならオープン化は強力な武器になる。収益モデルはどこか
オープンにする部分とクローズドにする部分を明確化し、キャッシュポイントを確保する。エコシステムを構築できるか
開発者や他企業が乗りやすい仕組みを整え、巻き込んでいく。ライバルと共存できるか
場合によってはライバルも取り込むことで、標準化を加速させる。ネットワーク効果が得られるか
ユーザー数や開発者数が増えるほど、自社の基盤が盤石になる構造を目指す。イノベーションは続くか
技術開示で外部の知見を取り込むほうが進化は早い。規制対応や標準化をどう狙うか
EUのUSB-Cのように、ルールを味方につけられるかは大きな差となる。
第五部:OpenAIの事例
ChatGPTで知られるOpenAIは、創設当初は“人類全体の利益のためにAI技術を共有する”というビジョンを掲げ、研究成果やコードを積極的にオープン化してきた。しかし、GPT-3あたりから一部のモデルをクローズド寄りにし、API経由の商業ライセンスを導入している。一方でMicrosoftと提携し、Azure上で大量の企業ユーザーを取り込みつつある。つまり「基礎モデルの一部はオープンにして研究者コミュニティを味方につけつつ、高度なモデルはクローズドにして収益を確保する」というハイブリッド戦略だ。
このやり方によってOpenAIは一気にブランド価値を高め、GoogleなどのAI大手と渡り合う地位を築いている。デジタル時代のオープン戦略は一筋縄ではいかないが、うまくバランスをとればシェアと収益の両面で大きなリターンを得られることを示す好例だ。
まとめ:オープン戦略はDX時代の必須検討テーマ
クローズド戦略が完全に悪いわけではない。たとえばAppleはデバイスとOSの密な統合でプレミアム感を維持しているし、Macのようにシェアは小さくてもブランドと収益性は高い。しかし、QRコードやBluetooth、Dolby Atmos、CUDA、さらにはOpenAIなど、多くの成功例を見れば、オープン化によって世界市場を短期間で席巻したケースがいかに多いかがわかる。
私がDX支援の現場でよく痛感するのは「自社技術を全面的に囲い込むか、あるいは特許を取得してすぐに秘匿化するか、以上!」という二択が多すぎることだ。だが実際には「収益を稼ぐ装置やソフトはクローズドにして、そこにつながるインターフェイスや評価基準はオープン化する」というハイブリッド戦略の幅がある。デジタルビジネスではこの発想を持たないと、大きなチャンスを逃す可能性が高い。
もし「自社がNo.1を目指したい技術やサービス」を抱えているなら、まずはオープン化でどこまで市場を作れるかを考えるべきだ。そして、そのために必要なゲーム理論や標準化戦略、ライセンスモデルの組み方を一体で検討すると、大きく飛躍できるチャンスが生まれる。「オープン化こそが攻めの秘訣」という認識を持ってほしい。
資料1: オープン戦略の事例紹介
1. Android OS(Google)
●背景
Googleがスマートフォン向けに開発したOS。Androidはベースのソースコードを「AOSP(Android Open Source Project)」として公開している。世界で最も利用されているモバイルOSといわれ、スマホ市場の約7割超のシェアを占める。
●どこをオープン化したか?
Androidの主要機能(カーネルやコアライブラリなど)のソースコードをAOSPとして公開。
開発者が自由にアプリを配布できる環境を整備(Google PlayのハードルはAppleに比べ比較的低め)。
●オープン化の狙いと成果
多数の端末メーカーを巻き込む
サムスンやLG、Xiaomiなどさまざまな企業がAndroidを搭載することで、市場を急速に拡大。エコシステム形成
幅広い開発者コミュニティが参入し、膨大なアプリが集まる。Google独自サービスの囲い込み
Android自体はオープンソースだが、GmailやGoogle Playなど一部はクローズドな「Googleモバイルサービス」として管理。端末メーカーがそれらを搭載するにはGoogleとの契約が必要となり、Googleのサービス拡張に貢献。圧倒的なシェア獲得
結果としてスマホ市場をAndroidが席巻し、広告収益やクラウドサービスなど、Googleの主力ビジネスを後押しする体制が整った。
2. Teslaの特許オープン化
●背景
米電気自動車(EV)メーカーのTeslaは、2014年にイーロン・マスクが「Teslaの特許を誰でも使っていい」と宣言し、EV関連技術を事実上オープン化したことで話題になった。
●どこをオープン化したか?
EVに関する特許(充電システムやパワートレインの一部など)
ただし、すべてを無条件で完全に公開したわけではなく、「善意に基づき特許を活用するのであれば、Teslaとしては訴訟しない」という方針を示す形。
●オープン化の狙いと成果
EV市場そのものの拡大
他社が安心してEV技術を採用することで市場が大きくなれば、充電インフラや関連サプライチェーンが整備され、結果的にTesla車の利便性も高まる。ブランド力とリーダーシップの確立
「EV革命をリードする企業」というイメージが強まり、投資家や消費者から注目される。実際には一部クローズドも活用
コアのソフトウェアや製造ノウハウなど、Teslaが差別化を維持したい部分はクローズド。ビジネスの「おいしい部分」は握りつつ、EV特許を“釣り餌”として市場を拡大する作戦。
3. IBM PCのアーキテクチャ(1980年代)
●背景
1981年、IBMが「IBM PC」と呼ばれるパーソナルコンピュータを発売。当時はコンピュータが高価でクローズドな世界だったが、このアーキテクチャが“公開”され、多数の互換機メーカーが参入したことでPC市場が一気に拡大した。
●どこをオープン化したか?
ハードウェア構成(バス構造、拡張スロットの仕様など)を事実上“標準”として公開。
BIOS部分は一部知的財産の扱いがあったものの、他社が「クリーンルーム手法」で互換BIOSを作る道を開いた。
●オープン化の狙いと成果
パーソナルコンピュータ市場の爆発
コロンビアやコンパックなどが「IBM互換機」を作り始め、低価格化と普及が一気に加速。ソフトウェア市場の拡大
IBM互換機の急増に伴い、DOSや後のWindowsなどソフトウェアプラットフォームが成熟。IBMの覇権は一時的
他社がハードウェアを作りやすくなった結果、PC市場は競合だらけの世界になり、最終的にIBM自身はPC事業を手放す(レノボに売却)展開となった。しかしオープンアーキテクチャが市場全体に与えたインパクトは絶大。
4. ARMアーキテクチャ
●背景
ARM(英国で生まれた半導体設計企業)は、スマホや組み込み機器で使われるプロセッサのベースアーキテクチャをライセンスするビジネスを展開してきた。AppleのiPhoneやサムスンのGalaxy、家電やIoT機器など、多くがARMベースのCPUを採用している。
●どこをオープン化したか?
**命令セットアーキテクチャ(ISA)**をライセンス提供。
ただし、ARM自体は「完全フリー」ではなく、“ライセンスビジネス”として広く公開し、多数の企業がARMの設計を使う形。
●オープン化の狙いと成果
“IP(知的財産)ライセンス”に特化
製造はしないが、コア設計を提供。誰でもARMコアを採用できるため、SoC(System on a Chip)メーカーは開発期間を大幅短縮。軽量・低消費電力という強みの共有
スマホブームが起きる中、インテルのx86より省電力でメリットが大きいARMが事実上の標準に。市場を支配
ライセンス料の積み上げと、事実上のプロセッサ標準化によるエコシステム拡大に成功。
5. RISC-V(リスクファイブ)
●背景
RISC-Vは、カリフォルニア大学バークレー校で生まれたオープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)。ARMと同様に低消費電力で効率が高いが、ISA自体が完全にオープンライセンスで提供されている点が特徴。
●どこをオープン化したか?
命令セットの仕様を無償で公開し、誰でも利用・改変が可能。
企業が独自の拡張を加えてチップを製造してもライセンス料は不要。
●オープン化の狙いと成果
ARMへの対抗
ARMは優れた設計だがライセンス料がかかる。一方、RISC-Vは自由に使えるため、多くの企業や研究者が注目。イノベーション促進
完全オープン化によって、ユーザー企業や大学が拡張命令を考案しやすい。CPUコアの独自実装やカスタマイズなどが盛んに行われる。エコシステム拡大中
西部デジタルやNVIDIAなど大手も参加しており、将来的にはARMと並ぶ勢力になる可能性がある。
6. Toyotaの燃料電池特許オープン化
●背景
トヨタは水素燃料電池自動車「MIRAI」の開発を進める中、2015年から燃料電池関連の特許を期間限定でオープン化し始めた。電動化や水素社会推進の一環として、大胆な特許公開が話題を集めた。
●どこをオープン化したか?
燃料電池スタックや水素供給関連など、数千件単位の特許を期間限定で無償でライセンス可能に。
車両制御や水素タンク技術など広範囲に及ぶ。
●オープン化の狙いと成果
水素インフラの普及
自社だけで燃料電池車を普及させるのは困難。競合企業も巻き込んでインフラを整えれば、結果的にトヨタ車も走りやすくなる。水素社会の実現へリーダーシップ
「燃料電池に本気なトヨタ」の姿勢を内外にアピールし、業界全体が水素にシフトしやすい環境を作る。実質的な一部クローズド管理も残す
特許すべてを完全無条件で放出したわけではなく、無償ライセンスする範囲や条件を設けることで、トヨタの主導権を確保している。
まとめ:オープン化の狙いは「市場拡大」と「標準獲得」
ここで紹介した事例はいずれも「先にオープンにすることで市場を作り、エコシステムのリーダーとなり、結果として自社の利益を拡大する」戦略が基本にある。大まかにいえば、以下のような流れを取ることが多い。
特許や技術仕様を一部公開し、他社が使えるようにする
市場やインフラの整備を促進し、全体の規模を拡大
コア部や収益源はクローズド(あるいはライセンス料の徴収)
標準化やエコシステムの主導権を確保して長期的優位を築く
オープンとクローズの境界は企業ごと、技術ごとに異なる。完全クローズドで囲い込む戦略も悪くはないが、市場全体の成長が鈍るリスクがある。一方、何でも無償でばらまけばいいわけでもなく、企業としての収益ポイントがどこにあるかをしっかり設計する必要がある。オープン化とは「競合にも技術を使わせること」ではあるが、最終的には自社のコアを活かして競争を有利に進めることが目標だといえる。
資料2: オープン戦略の類型化
オープン化戦略を考えるうえでは「どこまで技術や仕様を開示するのか」という“オープン化の類型”を把握し、それに合わせて「自社はどこで利益を出し、どこを公開して市場を作るのか」を考える必要がある。以下ではまず代表的なオープン化の類型を整理し、その後で「7つのチェックポイント」を使って具体的にどのように戦略を立案すればよいかを解説していく。
オープン化の類型
1. ブラックボックス(クローズド戦略)
概要
技術・ノウハウを一切公開せず、徹底的に秘匿化する方式。特許化すら行わず、社内の限られたメンバーだけが知るようにする。メリット
模倣リスクを最小化でき、独自優位を長期維持しやすい。
秘匿化に成功すればライバルが追随しにくい。
デメリット
市場が十分に拡大せず、自社だけの収益では限界がある。
技術が外に出ないため、エコシステム形成や標準化が難しい。
2. 知財独占(特許取得を含むクローズド)
概要
特許など法的手段で権利化して、他社にはライセンス供与しないか、極めて制限的な利用だけ許す方式。メリット
技術公開はされるが(特許は基本的に公開文書)、模倣するにはライセンスが必要となるため、一定の参入障壁を築ける。
デメリット
広範な市場形成にはつながりにくい。
他社が別の規格を立ち上げる場合があり、オープンな競合に負けるリスクがある。
3. 知財ライセンス(部分的オープン)
概要
特許や技術仕様を取得したうえで、他社にライセンス供与する方式。ライセンス料金を得られる一方で、業界内での普及が進む可能性が高い。メリット
認知度・利用率が高まりやすく、収益化と市場拡大を両立しやすい。
ライバルとの競合を調整しやすく、自社のコア技術はコントロール可能。
デメリット
ライセンス条件を誤ると収益化につながらない。
ライバルが別のオープン規格を立ち上げる場合は優位性を失う恐れ。
4. オープンソース・論文公開(フルオープン)
概要
ソフトウェアや技術文書を無償で誰でも使える形で公開する方式。Linuxや多くの機械学習ライブラリがこれに相当。メリット
開発者コミュニティの参加で技術が急速に進化しやすい。
短期的に爆発的な普及が期待できる。
デメリット
直接的なライセンス収益を得にくい。
ビジネスモデルを別途考えないと儲けどころが無くなる。
5. 標準化(デファクトまたはフォーラム)
概要
業界団体やフォーラムを立ち上げ、同じ規格や仕様を業界全体で合意して使う形。Blu-rayのように複数企業が連合を組む場合もあれば、BluetoothのようにSIG(Special Interest Group)を作る場合もある。メリット
規格統一が進み、市場が一斉に盛り上がる。
デファクトスタンダードを握れば長期的支配力が得られる。
デメリット
他社との共同作業が必要で、主導権争いが起きる。
オープン化する技術領域を誤ると差別化要素を失う。
6. 規制化・法制化(究極のオープン化)
概要
政府や国際機関が特定技術や規格を義務として採用する形。USB-CのEU法制化などが例。メリット
強制力が高く、一気に業界全体を覆う。
推進役となった企業が実質的にリード企業になる。
デメリット
規制は政治的・社会的要因が絡むため、企業単独でのコントロールが難しい。
義務化されると差別化が難しくなるケースもある。
資料3:7つのチェックポイントでオープン戦略を整理する実践法
ここからは、実際に「自社がオープン化をどう設計するのか」を検討するためのフレームワークとして有用な7つの視点を紹介する。各チェックポイントに沿って考えることで、オープン化戦略の“どこをどう開くか”が見えてくる。
1. 市場No.1を目指すか?
主な検討内容
自社が狙う市場の規模はどれくらいか?
世界トップクラスのシェアを取りたいのか、それともプレミアムな小さな市場でも構わないのか?
オープン戦略の意義
市場支配や大きな普及を狙うのであれば、オープン化が極めて有効。先に規格化を進めることで“事実上の標準”を取れる可能性が高い。一方、ニッチな高級路線での独自路線を貫くなら、クローズド戦略でもよい。実践ヒント
市場規模に見合った投資ができるかどうかをまず確認。
競合がすでにオープン化に動いている場合、クローズド戦略はリスクが高まる。
2. 収益モデルはどこか?
主な検討内容
オープンにすることで直販の利益は減らないか?
代替の収益源(ライセンス収入、周辺機器、サービス課金など)はあるか?
オープン戦略の意義
技術を全公開すると直接的なライセンス収入が得られない場合があるが、一方で市場が大きくなることで別の収益ポイントが生まれる。QRコードのように「読み取り端末や関連ソリューション」で稼ぐケースなどが典型。実践ヒント
「技術を開示する」→「どこか別の段階で価値(収益)を回収する」という図式が成り立つかを具体的に考える。
本当にすべてをオープン化しないといけないか、ライセンス料やサブスクリプションなど段階的な仕組みが可能か検討。
3. エコシステムを構築できるか?
主な検討内容
開発者コミュニティやパートナー企業が参加しやすい仕掛けはあるか?
どのようなメリットを提供することで「一緒に盛り上げよう」と思ってもらえるか?
オープン戦略の意義
単独での成長より、エコシステム全体が膨れ上がるほうが市場スケールが格段に大きくなる。製品の周辺にサードパーティーが次々と出てくるとネットワーク効果も期待できる。実践ヒント
SDKやAPIを公開し、開発者に入り口を提供する(App StoreやAndroidのように)。
パートナー企業にライセンス条件を緩和し、早期参入を促す。
4. ライバルと上手に共存できるか?(競合関係のコントロール)
主な検討内容
同業他社や異業種パートナーと協力して規格を作る必要があるか?
ライバルが既に似たような技術を市場投入していないか?
オープン戦略の意義
場合によってはライバルとも協力して標準化を推進することがベストなケースがある(Bluetooth、Blu-rayなど)。一方、自社だけがクローズドに固執すると競合他社が連合を組んでオープン規格を作り、そちらがデファクトになるリスクもある。実践ヒント
競合との利害が重なる部分と差別化する部分をあらかじめ切り分ける。
フォーラムや業界団体を活用し、協力しながらも自社の主導権を確保する手段を探る。
5. ネットワーク効果が起きるか?
主な検討内容
利用者が増えるほど、追加的な価値が高まる仕組み(“ネットワーク外部性”)があるか?
オープン化によるユーザー参加のハードルは十分低いか?
オープン戦略の意義
ネットワーク効果が強く働く領域では、先に一定数のユーザーや開発者を取り込んだ方が勝ちやすい。SNSやプラットフォームビジネスが典型。実践ヒント
初期ユーザーにインセンティブを与え、最初の“山”を越える。
オープンAPIを提供してサードパーティーの参入を促すと爆発的に利用者を増やせる。
6. イノベーションを加速できるか?
主な検討内容
自社内の開発リソースだけで十分革新を続けられるか?
外部の研究者・開発者を巻き込むと、より速い進化が見込める分野ではないか?
オープン戦略の意義
オープン化は外部からのアイデア取り込みを容易にし、イノベーション速度を格段に上げる。オープンソースコミュニティや研究者コミュニティを味方につけることで、自社単独開発に比べアップデートが早まる。実践ヒント
論文やリポジトリを公開し、世界中からフィードバックを得る形を整備。
定期的に情報交換する場(フォーラムや開発者会議)を設けてコントリビューターを育成する。
7. 規格化・規制対応を味方にできるか?
主な検討内容
自社技術を業界標準(デファクト)にするための働きかけは可能か?
政府や国際団体の規制や法令を逆手に取って有利にできるか?
オープン戦略の意義
USB-Cのように法制化されると業界全体が強制的にその規格を採用することになる。自社がその流れを起こせれば“規制そのものが自社を後押し”してくれる形になる。実践ヒント
業界団体や標準化委員会に積極的に参加し、技術提案を行う。
規制当局や政府との関係を築き、環境・社会貢献の面からも規格を採用してもらうシナリオを描く。
まとめ:オープン化戦略は“どこを開いて、どこを閉じるか”の設計がすべて
オープン化にはさまざまな類型があり、すべてを無償で公開すれば成功するわけではない。クローズドとオープンをうまく組み合わせ、“どこで儲けて、どこで市場を作るか”を慎重にプランニングする必要がある。ここで紹介した7つのチェックポイントは、実際に戦略を立案するときの大枠を押さえるための手がかりだ。
(1)市場No.1を目指すか?
(2)収益モデルはどこか?
(3)エコシステム構築はできるか?
(4)競合とどう共存・差別化するか?
(5)ネットワーク効果を最大化できるか?
(6)外部リソースを活かしてイノベーションを加速できるか?
(7)規格化・規制対応で先手を取れるか?
自社がオープンにしたい技術領域を明確にしつつ、これらのポイントをチェックすることで、たとえば「どこまで開くか(オープンソース? 特許ライセンス? フォーラム設立?)」や「誰を巻き込むか(競合も含める? 海外勢も対象?)」など、具体的な打ち手を検討できるはずだ。
実際の事業計画では、短期的な利益確保と長期的な市場創造のバランスを取りつつ、ライセンス契約や標準化プロセスなどの細部を設計する必要がある。だが、上記の7つの視点を踏まえておけば、オープン化の“メリットとリスク”を整理しやすくなり、最終的に最適な組み合わせを見出しやすくなるだろう。