見出し画像

#37「CASE×MaaSが切り拓く自動車・モビリティの新潮流」

デデデータ!!〜“あきない”データの話〜第24回「自動車業界は100年に一度の変革期!クルマのデータ活用で、暮らしはどう変わる?」の台本・書き起こしをベースに、テキストのみで楽しめるようにnote用に再構成したものです。podcastで興味を持った方により、理解していただくために一部、リファレンスをつけています。

今回は、「CASE」と「MaaS」。CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)は自動車そのものを根本から変えようとしているキーワードであり、MaaS(Mobility as a Service)は、あらゆる産業が「移動」と結びつく可能性を秘めている。一見すると小難しそうだが、日常の暮らしに深く入り込む余地がある。


CASEがもたらす100年に一度の変革

最初にCASEに着目する。Connected、Autonomous、Shared、Electric。どれも英語で言うと固い響きがあるが、ひとつひとつを紐解けばそこに無限のストーリーがある。

Connected(コネクテッド)

車とクラウドが繋がる時代。

たとえば、私の知人が乗っているクルマには通信モジュールが標準装備されていて、スマホ画面から現在地を確認したり、エアコンを遠隔操作したりできる。車両の操作情報やエンジン回転数、ウィンカー、ワイパーの作動状況などを集める「CANデータ」、さらに走行ルートや速度などを蓄積する「ナビプローブデータ」。それらを分析すれば、「どこで急ブレーキが多いか」「どの道が災害時に寸断されているか」といった、まちづくりや交通安全のヒントが見つかる。

自治体の担当者と話したとき「道路の破損を補修したいが、どこから手をつけるのが優先度高いかわからない」という声をよく聞く。ここでコネクテッドカーから得られる振動データが役立つらしい。

実際、Hondaが「急ブレーキや揺れの多発地点」を自治体に提供し、事故防止や舗装計画を支援しているという事例は有名だ。データと街がつながる。車が単なる移動手段から街の情報収集ツールに化ける。こうした一連の流れがConnectedの価値だと思う。

Autonomous(自動運転)

次にAutonomous、自動運転だ。レベル1~5まで段階があり、いま各国で高度化が進む。「ハンドルがなくなる時代が来るのか?」運転者不要の完全自動車。想像するとSFのようだが、すでに一部の地域ではロボタクシーの実証実験が盛んだ。シリコンバレーではすでに実用レベルで運行されていると聞く。

手動運転と自動運転の大きな違いは、「車内空間」がどう変わるかだ。運転に集中しなくていいということは、そこをカフェのように使ってもいいし、オフィスブースのようにしてもいい。会議しながら移動なんてことも夢じゃない。

Shared(シェアリング)

所有から利用へ。個人的にはカーシェアサービスをよく活用している。「家に車を置いておく時間のほうが長いならば、シェアのほうが合理的」という発想だ。ビジネス的にもサブスクのようなリース契約、あるいは短時間利用のカーシェア。これらが増えるほど車の台数そのものは減るかもしれないが、一方で自動車メーカーは「シェア向けの車両販売」で新しい収益を狙っている。

ただしシェアには課題もある。乗り捨て可能なワンウェイが普及しないと、タクシーほど使い勝手がよくならない。都心部や観光地ではさらに駐車スペースの確保も必要だ。まるでパズルのように「どこに停め、どの場所で返却するか」を考えなければいけない。ここもデータ活用が鍵になる。利用者の動線をAIが学習し、需要の高いスポットに車を配置する。需要が少ないときは料金を下げて利用を促進する。そんなダイナミックプライシングが実現すれば、カーシェアはもっと身近になるはずだ。

Electric(電動化)

ガソリンから電気へ。電気自動車(EV)は充電インフラが整備されないと普及しにくい。私が知る限り、日本は欧米に比べてまだ充電スタンドが少ない。旅行先でバッテリー残量が厳しくなると恐ろしく不安になる。いわば、スマートフォンの充電切れの比ではない恐怖がある。ガソリンスタンドのように、いつでもさっと充電できる環境が欲しい。

それでも電動化のメリットは大きい。二酸化炭素排出量の削減、走行中の静かさ、そして「車を巨大バッテリーとして家庭に給電する」など逆転の発想も出ている。もし多くの家がEVを持てば、災害時の電源バックアップとして活かせる可能性がある。これはまさに再生可能エネルギーとの連携だ。大きな未来像を感じる。


MaaSが広げるサービス×移動の次元拡張

CASEという車側の変革に対し、MaaSは「街や社会の仕組み」を変えるコンセプトだ。Mobility as a Service。単なるバスやタクシーだけでなく、医療、介護、観光、商業施設などと組み合わせて“移動の最適化”を実現する。

MaaSと医療・介護

興味深い例として、長野県の山間部における移動クリニック車両の事例がある。高齢化が進み医師不足が深刻な地域で、住民が病院に通うのも一苦労。この課題を解決するためにソフトバンク×トヨタの合弁企業(MONET Technologies)が、車内で診療できる車両を提供しようとしている。まるで「走る病院」だ。

ダイハツも介護MaaSに着手し、高齢者のデイサービス送迎ルートを効率化する計画を持っているという話も聞いた。どの家からどの家へ移動し、どんな乗降サポートが必要か。これらの情報をデータで一元管理すれば、個々人の負担が軽減される。高齢者の移動は手間と不安が多い。そこをMaaSでシステム化すれば、遠隔地でもスムーズに移動ができるかもしれない。

MaaSと観光・商業

観光地も大渋滞に悩まされているところが多い。特定シーズンに車が集中し、現地でレンタカーを使おうとしたら在庫切れ、なんてことはザラだ。ここでMaaSが進化すれば、交通手段をオンラインで一括検索して予約決済し、現地でシームレスに乗り換えできるようになる。バスに乗り遅れたら、すぐ隣のシェアカーを借りればいい。少し複数人が集まったらオンデマンドバスを呼び出して割り勘で移動するのも良い。

商業面でも、ショッピングモールが独自の送迎シャトルを出しているケースは少なくないが、今後はモールだけでなく、あちこちの商店街と連携し合って巨大なシャトルネットワークを構築するかもしれない。ハブとなる駅に降りたら、自動運転バスが巡回しているイメージ。乗りたい人はスマホでポチッと予約するだけ。呼べば数分で到着する。映画館、スーパーマーケット、ホームセンター、家電量販店などをぐるっと回ってくれる。徒歩で回るより断然ラクだろう。


ライドシェアの解禁と日本特有の規制

ここで話題になるのがライドシェア。海外ではUberやLyftがすでに普及しているが、日本ではタクシー業界の反発や法規制の問題があり、本格導入が遅れてきた。2024年4月に解禁されたといっても、タクシー会社主導の「自家用車活用事業」と、自治体やNPOが主体となる「自家用有償旅客運送制度」の2種類がメイン。

いわゆる「誰でもドライバー登録できる」仕組みにはなっていない。安全面や責任の所在があいまいになる懸念があるからだとも言われる。私自身も、完全自由化に賛成かどうかは迷うところだが、地方の交通空白地では必要に迫られているのも事実。集落から駅までのバス路線が廃止されれば、通院や買い物に困る高齢者は多い。誰かがやらねばならない。ボランティア依存では継続が厳しいという声もある。

こうしたジレンマの中で、日本版ライドシェアは「公共性」を強く意識した形でスタートしている。


データこそがサービス最適化のカギ

MaaSが広がるほど、あちこちのプレイヤーが集う。自動車メーカー、バス会社、タクシー会社、保険会社、自治体、小売業、観光事業者など。多様な思惑が絡まるほど調整も煩雑になる。しかし、そこをつないでくれるのが「データ」だと考えている。

乗車数、時間帯別のピーク、ユーザーの属性、決済金額などをAIが分析すれば、最適なルート計画や料金設定が立案できる。例えるなら「巨大な交通オーケストラ」を指揮する指揮者のようなもの。データサイエンスがないと、誰がいつどこで車を必要としているかを正確に把握できないし、その場当たりの対応に追われてしまう。

一方、プライバシー保護も大きな課題。乗客の位置情報や行動履歴が漏えいしてはいけない。匿名化やフィルタリングによる統計的処理が必須。その上で、社会全体に価値を還元できるルールを整える必要がある。自治体はその調整役としてデータの中立管理を担うことが増えつつある。車両メーカーは自社クラウドを構築し、他企業と連携するパートナーシップを模索している。保険会社はテレマティクス保険の精度を上げるためにドライバーの走行データを欲しがっている。こうした関係性がじわじわと広がっている。


私が感じる“移動の未来図”

ここまでケーススタディをいろいろ挙げてきたが、私のイメージする“移動の未来図”はこんな感じだ。朝起きてスマホを開けば、その日予定している病院の予約時間が表示される。そこに合わせてAIが自動的に配車予約をしてくれる。途中でドラッグストアに寄るかどうかも事前に問われ、タップひとつで寄り道ルートが確保される。時間に遅れそうならオンデマンドバスではなく、近くのシェアカーに切り替えてくれる。帰り道は小腹が空いたからスーパーに立ち寄る。そしたら折り返しで家に戻るか、あるいは宅配ドローンが荷物を運んでくれる。これらが全部一括決済。そんな生活が当たり前のように回る。

もちろんまだ夢物語に近い。インフラ整備、法整備、ビジネスモデル検証、ユーザーの心理的ハードルなど、超えるべき課題が山積している。ただ、その先にある景色はワクワクするものだと思う。コントラストをつけて言えば、いま自動車業界では「車づくり」がゴールではなく、「暮らし・街づくり」を車が支えるのが当たり前になりつつある。私はそこに大きな可能性を感じる。


CASE×MaaSへの私なりの期待と展望

「車を売る時代は終わり、移動を売る時代が始まる」と聞いたとき、最初はピンとこなかった。しかし、コネクテッドや自動運転、シェアリングや電動化が浸透すると、ハンドルを握る喜びだけでなく、運転から解放される喜びも生まれる。買い物に行くのが面倒なら移動店舗がやってきてもいいし、自宅からリモートで外出先の車を呼び寄せるのも可能だろう。

こうした話は決して空想ではない。すでに本気で実行に移している自治体、企業、スタートアップが少なくない。数字の面で言えば、2030年ごろには自動車産業全体の利益のうち25%をCASEやMaaS関連が占めるという試算がある。巨大な市場だ。カーボンニュートラルや都市化、人口減少といったマクロ課題が絡み合い、従来の内燃機関ビジネスだけでは成長が見込めないからこそ、メーカー各社は真剣にMaaSへ舵を切っている。

個人的には「移動がもたらす生活の変化」こそが、社会の空気をがらりと変える一番の要因だと感じている。オンラインでつながる世界でも、人は最後に必ず物理的に移動をする。そこがデジタルと組み合わさると、これまでになかった価値が見えてくる。移動自体がエンタメになる。いっぽうで移動をあえてゼロにして、必要な物やサービスがこちらに来る。どちらでもいい。すべてが流動的に選べる柔軟さ。そんな社会を私自身は見てみたい。


まとめ:モビリティは都市機能の中枢へ

CASE×MaaSがもたらすインパクトは計り知れない。車がネットワーク化してビッグデータを生み、自動運転が運転手という概念を変え、所有からシェアへ変わり、電動化が環境負荷を下げる。さらにMaaSが異業種との接点を広げ、医療や介護、観光、不動産、小売などと結びついていく。やがて移動は「都市機能の血流」と呼べる存在になり、社会全体の形を変えるはずだ。
規制やインフラ整備はまだまだ問題山積だが、そこに取り組むプレイヤーが増えればチャンスも広がる。私は「車づくり」という枠を超えて、「移動サービス」の包括的なプラットフォームを展開する企業があらゆる産業を巻き込み、街づくりの最前線に立っていくと確信している。
これは大いなる変革であり、チャンスの宝庫だ。膨大なデータの活用、AI技術の発展、新たなサービスモデルの模索。どれか一つをとってもワクワクする材料ばかり。少しずつ前に進めば、やがてこれまでの常識が覆される瞬間が来るはずだ。そう信じながら、私はこのCASE×MaaSの行方を追い続ける。場合によっては、自分自身が新たなサービスや仕組みの共創に携わりたいとも思う。

車とは単なる鉄の塊ではなく、街を動かし、人々の日常を織り成す「モビリティの核」。この視点こそが、私がCASE×MaaS時代を語るうえでの出発点。100年に一度の変革といわれる大きな波。ここから先、どんな物語が描かれ、どんな社会が到来するのか。その全貌はまだつかみきれないが、だからこそ面白い。多くの人と対話し、議論し、ときに衝突し、ときに協力しながら、次の時代をデザインしていきたいと考えている。

エピソードURL

今回参考にした資料は次のとおり

NRI野村総合研究所による自動車産業の将来展望に関するレポート 

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2022/02/cs20220205.pdf

経済産業省による自動車産業の将来像と政策に関する資料

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/jido_soko/r6dxjimukyokushiryou2.pdf

国土交通省による自動車関連情報の利活用に関する資料

https://www.mlit.go.jp/common/001061957.pdf

政府広報オンラインによるMaaS(Mobility as a Service)の概要説明

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201912/1.html

関東経済産業局による地域MaaS社会実装のための収益モデル調査事業報告書

https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/jidosha/data/3fy_kanto_maas_chousahoukoku.pdf


国土交通省による日本版MaaSの推進に関する情報ページ

その他参考資料

いいなと思ったら応援しよう!