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認知症ケアで「寄り添う」前に


真っ先に気をつけたいこと


認知症の方には優しく真心込めて寄り添いましょう。
もちろんそれは間違いではない。不機嫌極まりないやつが、不躾に話しかけてくれば誰だって嫌な気持ちにもなる。
優しく接することに越したことはない。

そんな時、「寄り添う」という言葉がよく使われる。
優しい響きがあって、いかにも手厚くケアしているように聞こえる。
不安で落ち着かない認知症のお年寄りに、そっと手をとり優しく微笑む。そのような光景が目に浮かぶ。

だが、そのお年寄りが不安で落ち着かないのではなく、他に理由があって落ち着かない場合はどうだろうか。

トイレを探して慌てふためいているところ、前からニヤニヤしながら近づいてきて、小声で何か話しかけてきながら手を握ろうとする。

シンプルに「邪魔っ!」とならないか。

ここで手を払い除けようとして、職員の手を叩こうものなら、「暴力老人だ!」となる可能性もある。
ただトイレに行きたいだけなのに。

こういった場面に陥らないように、お年寄りの手を取る前に僕ら介護職がするべきことがかある。

それは「体調不良に気をつける」だ

その中でも最も気をつけたいのは「せん妄」である。

せん妄とはなにか

いわゆる意識混濁の状態に陥る。まわりの状況を上手く認識出来ず、支離滅裂な言動をとってしまうことも。

「地面に水が溢れてきてる!」

「そこに小さい子おるやろ、こっち呼んで」

これらは現場でよく聞く言葉であり、実際に先日せん妄となったおばあさんの発言である。まさにそこに水があるかのように、お椀ですくってみせたり、子どもを探し歩いたりと、明らかに状況とマッチしない言動をとっていた。

放っておけば普段の行動とは違う動きをみせるので転倒のリスクがあがり、アクシデントにも繋がりかねない。

そこでよくある対応方法が、文字通り傍に寄り添って付き合う、といったものだ。

それらが悪いわけではないが、火事がおきているのに煙に水をまいているようなもの。きちんと火元から消化しなければ火は消えない。せん妄の原因を取り除かなければならないのだ。


ここでは介護現場でのメジャーな原因と対策を覚えておこう。

①脱水

せん妄の王道であり、最も気をつけて起きたいこと。特に夜間せん妄がみられる方は水分を多めにとってもらうだけでその症状が綺麗に消失したりする。あるおばあさんが、「水が溢れてる!」とフロアの床をお椀で懸命にすくっていた。もちろん水がなくなることはない。なぜならそこに水などないからだ。おおばあさんは前日に発熱しており、身体の中の水分が不足していたのだろう。いつもより多く水分をとってもらうだけで、症状は改善した。そして言うまでもないが、全員一律同じ量を飲ませろ、ということではない。

②便秘

脱水と対をなす存在。便秘の原因が脱水である場合もあり、最善の注意が必要。とあるおじいさんは怒りっぽく、街をとにかく徘徊していた。ある日道端で倒れ、入院することに。腹部の異常から、緊急手術が行われ、お腹を開けてみると…便が詰まりに詰まっていた。それらを取り除いたあと、おじいさんはとても穏やかになられた。何故か週に何度か粗暴な時があるという方、その原因は便秘かもしれませんよ。
※脱水は日内変動、便秘は週内変動が多い

③慢性疾患の悪化

いつもは穏やかな方が、絶えず歩き回って転倒を繰り返していた。明らかな異常行動に、どうしていいか分からなくなっていた。そこで受診し詳しく調べてみると、糖尿病が悪化しており、治療が見直されると症状が無くなった、というケースがあった。既往歴はチェックを入れておこう。特に今も服薬治療しているものなどは是非。

④怪我(痛み)

急にうわ言を繰り返すようになった方。色々探るが見当がつかない。介助しようとすれば、暴れるように手を振り払われる。一体どうしたのだろうとみんな悩んでいた。するとある職員が気づいた。「入れ歯がちゃんとはまってない?…」部分入れ歯の金具部分が口腔内を傷つけていたのだ。おそらくずっと痛みが走っていたのだろう。入れ歯を外してしばらくすると症状はおさまった。

⑤薬

抑えておきたいポイントであるが、見逃されやすいものである。治療と称して数々の薬が処方されている方は多い(ポリファーマシー)。副作用が副作用を呼び、いわゆる服薬カスケード状態となり、せん妄を誘発することはよくあるように思う。医療職と要相談だが、ここをクリアしないと、何が悪さをしているかが判断しずらくなる。

この5つは認知症のケアでも共通しているアセスメント項目であるだろう。要は認知症の症状だから、と見過ごされている場合もあるのだ。

これらをきちんとケアすることでせん妄が改善し、生活が落ち着く方は思いのほかたくさんいる。

生活支援の場のプロである介護職として、是非覚えておいて損はない。

ちなみに、認知症の症状とせん妄の見分け方は、

その症状がいつ現れたか

である程度判断できる。
認知症の症状は緩やかであることが多いことに対し、せん妄の症状は割と急に発生する。「昨日の晩からおかしくなった」みたいな場合は上記5つをまず思い浮かべてみてもいい。

当たり前の生活を目指すという介護現場なら、十分クリア可能なものだろう。

そうすることで単に暴れたり落ち着かない人を必死でなだめたり、すかしたりなどする必要がなくなり、介護も楽になる。

これが本当の意味での「寄り添う」だと思うのだ😊

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