日本語教師のための類語辞典 〜その違い学習者にどう説明する?〜
「将来」と「未来」は何が違うの?
「こんにちは」の「は」はなぜ「わ(wa)」と発音するの?
日本語を教えていて、または外国人と話していてこのような素朴な疑問をぶつけられたことはないでしょうか。
答えに窮して後で文法書や辞書を見ても語彙の違いは分かりにくく日本人でも理解しづらいものが多くあります。
このnoteでは日本語学校で6年間、オンラインで4年間日本語を教えてきたプロ日本語教師が、日本語学習者からの質問や誤用が多い文法や語彙項目を選出し、日本語学習者にとっても分かりやすい例文とともに解説しました。
大きく文法と語彙項目に分け、後には日本語学習者に話してとても興味を持ってくれた日本語に関する雑学を掲載しております。
日本語教師として活躍している方はもちろん、日本語学習者にとっても辞書代わりに使っていただけると幸いです。
*このnoteは学習者からの質問が増え次第、随時加筆修正して参ります。
文法
なぜ「合格する」というのに「不合格する」と言わないのか?
学習者のとても多い誤用で「JLPTに不合格しました」というものがあります。
確かに「合格する」は正しいのになぜ「不合格する」は非文になってしまうのでしょうか。
・「〜する」は「自分で〜する」と言う意味で積極的なニュアンスです。
・「〜なる」は「自然に〜なる」と言う消極的なニュアンスがあります。
なので「合格する」は「自分で努力して自分で合格を勝ち取る」と言うニュアンスがあります。
しかし、「自分から進んで不合格を勝ち取る」人はいません。
なのであえて消極的な意味を込めて「頑張ったけど不合格になった」と言うのでしょう。
また、他に考えられる理由として「不〜」というのは「〜じゃない」という否定の意味であり、「不合格」は「合格じゃない」という意味になります。
したがって「不合格する」というと「合格じゃないする」という日本語として不適切な形になるためだとも考えられます。
なぜ「昨日に行きました」と言わないのか。
格助詞「に」の一つの用法として、時点の用法があります。
・1時に集まってください。
・26日に旅行しました。
一方で「に」が使えない文もあります。
・明日に買い物へ行きます*
・去年に大会がありました*
いずれも日本語学習者にありがちの非文ですが、なぜ非文になるのでしょうか。
時点を表す助詞「に」は時点を指定する機能があります。
「26日」「1時」というと次の日から見ても同じ日時をさしますが、「明日」「去年」などは発話時を相対的な基準として使います。
つまり、「明日」といっていた日は1日経てば「今日」になり、格助詞「に」でしっかりと特定することができません。
したがって無助詞になります。
同様の名詞は以下のようなものがあります。
明後日、先週、来週、去年、来月、先月、今、昔、今朝、夜
しかし、上記の名詞を使っても特定すれば格助詞が使えます。
・26日の夜に会いましょう。
・先週の火曜日に買い物に行きました。
次のような「期間」は特定できないため無助詞になります。
・一日中、ゲームしていた。
・午前中ずっと寝ていた。
なぜ「寝に行きます」と言わないのか?
学生の文を見ていて時々、「そろそろ寝に行きます」というような非文を見ることがあります。
文法の定義から言えば
(ます形)に行きます
なので正しいはずです。
ではなぜ「寝に行きます」がおかしく聞こえるのかというと「に行きます」の前は「(何か目的があってそれをし)に行きます」という意味だからです。
つまり「に行きます」の前の動詞は動的なものでなければならないのです。
なので、「寝る」という動詞に動的な意味はないため「寝に行きます」は非文なのです。
「場合」と「とき」
・学校に遅れる場合は連絡してください。
・学校に遅れるときは連絡してください。
でも、次の例文は「場合」にすると違和感があります。
①いつも休みの場合、何してる*
②いつも休みのとき、何している○
次の例文では「とき」にすると違和感があります。
③今、寝てる場合じゃないでしょう○
④今、寝てるときじゃないでしょう*
①と②は「普段」のことを聞いていますが、このときは「場合」を使うと違和感があります。
つまり、「場合」は何か特別な「とき」に使用し、「もし〜とき」と言う意味になります。
③、④では寝てはいけない特別な切羽詰まった情景が思い浮かびます。
したがって「場合」が適切です。
またもう一つ違う点があります。
「場合」は「もし〜とき」と言う意味ですから、過去を表すときは使えません。
・地震が起きたとき私は寝ていた○
・地震が起きた場合私は寝ていた*
「帰る際に」と「帰るときに」
・旅行にいく際にパスポートを持って行きます。
・旅行に行く時にパスポートを持って行きます。
・帰る際に忘れ物に気をつけてください。
・帰る時に忘れ物に気をつけてください。
ほとんど同じ意味に聞こえます。じゃあ次はどうでしょう。
・学生の際にサッカーをしていた*
・学生の時にサッカーをしていた。
・アルバイトしている際に雨が降り出した*
・アルバイトしている時に雨が降り出した。
「〜際に」は「〜の瞬間」「〜する瞬間」という意味でとても短い時間を表します。
「トイレはどこですか?」と「トイレはどこにありますか?」の違い
A:「〜は〜です」構文と「〜は~にあります」は代替可能な場合が多くあり、学習者はどちらを使えばいいのか迷ってしまうようです。
・トイレはここです。
・トイレはここにあります。
・鈴木さんはここにいます。
・コンビニはどこですか?
・コンビニはどこにありますか?
・鈴木さんはどこですか?
・鈴木さんはどこにいますか?
確かに似たような意味に受け取れますが、完全に代替可能なのかというとそうでもありません。
a.自由の女神はアメリカです*
b.自由の女神はアメリカにあります。
c.自由の女神はどこですか?
d.自由の女神はどこにありますか?
aの文は非文で、「自由の女神はどこですか?」はすでにその現場近くにいて道を聞いている意味に受け取れます。
つまり、「〜は〜です」構文の存在文は存在している前提の存在文だと言えそうです。
それ故か「Aは〜です」構文は存在文「Aは〜にあります」のようにAの存在自体の是非(Yes,No)を問うことはできません。
e. トイレはあります。
e’. トイレはありますか?
また数詞などの修飾語と共起できるのは「あります」「います」のみです。
・私はロンドンに4年です*
・私はロンドンに4年います。
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