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靴底にご用心

私は靴売り場のレジにいるのだが最近、
「この靴を買って履いていきます。今履いてる靴を処分して頂いても良いですか?」
というお客様が多い。
普段はあっても1日にお一人くらいなのだが、今日は午前中だけで5、6人が来られた。

急に暑くなったせいで、皆さん慌ててサンダル等の夏用の靴を出して履くのだと思う。急いでいると、靴(特に靴底)の状態など点検しないで履く。歩いている内に、あれっ?何か違和感が…となり、これは大変!となって店に駆け込んで来られるのだろう。

ウチの店は丁度住宅街から駅にぬける道沿いにある為、駅に向かって歩いていてそうなる人が多いのだと思う。
皆さん、とても恥ずかしそうに来られるので、ちょっと微笑ましい。

だが、今日来られた方などはよく怪我せずに済んだな、と思える状態だった。
サンダルのかなり高いヒールがポッキリ折れていたのだ。歩いている最中だったそうで、びっくりしました、と仰っていた。相当な衝撃だったろう。思わず大丈夫でしたか、と聞いてしまったくらいだった。

もう一人の高齢のお客様は、靴底に穴が空いてしまった、と言って来られた。見ると、甲の部分は何ともないのに、靴底は劣化して踵の部分はもう殆どなくなっていた。
履いて直ぐは気が付かず、歩きだして足裏が熱くなってきて、慌てたと仰っていた。
「履く時に底なんて見ないからねえ」
お客様は心なしか情けなさそうだった。

私は甥の結婚式の時、滅多に履かないエナメルの黒いパンプスを履いた。遠方での式だったのでスニーカーを履いて向かい、会場で履き替えた。
何年か前に靴底の補強を済ませていたので、全く心配などしておらず、普通に履けるつもりだった。
披露宴の途中、私の周りに黒いカケラがいくつか落ちている事に気付いて何気なく踵を見ると、脆くなって崩れだしていた。ヒヤッとした。
なんとか式の間中は持ち堪えたが、履き替えるまで気が気ではなかった。
帰って直ぐにリペアに持っていったら、工房の職人さんに、
「靴底は履いていなくても劣化しますよ。打ち直しは直ぐにできますから、時々お時間ある時に見て下さいね。履く予定があるなら、出来るだけ早目に。でないと危険ですよ」
と言われた。
最近、この時の事を思い出している。

夫に聞いた話では、登山道でもよく靴底だけが落ちていたりするそうだ。どうやって帰ったのかな、といつも思う、と笑っている。
山歩きのシーズンがきて、去年しまった靴を出してきてそのまま履く。すると劣化している。気付かず歩いていくとやがて底が取れてしまうのだと言う。
こちらは本当に危険だと思う。

靴磨きはする人が多いだろう。
だけど、その時に靴底の状態をチェックする人は少ないと思う。
自分も夫の靴を磨いているとき、大丈夫かな?と靴底を見る事は稀である。

長い事履かないと、靴底は劣化する。酷い物だと粉々になったりする。
置いておく場所にもよるだろうが、1シーズン跨いだ物は久しぶりに履く前に、是非点検をお薦めしたい。

底が駄目では靴の用をなさない。見た目がどんなに綺麗でも。