見出し画像

アライグマ?

お盆から姑に請われて帰省していた夫が帰宅した。姑が元気そうだったので一安心だね、と言っていたのだが、
「また洗濯機新しいのになっとった」
と夫はぼやく。

姑はよく洗濯機をだめにしてしまう。ウチは結婚以来まだ2台目だが、姑宅は私が把握しているだけで5台目である。きっとそれ以前にも何台かあっただろうから、トータルで何台の洗濯機が天に召されたのか、見当もつかない。

ダメになる原因はただ一つ。酷使し過ぎるのである。
洗濯機には普通『こういう物は洗い、脱水すると故障の原因になりますので、しないように』と注意書きがあり、防水シートなどが書かれている。入れすぎもやめてくれ、と書いてある。
第一入れ過ぎでは綺麗に洗えない。言われなくても普通そんな事はしない。
以前壊れた時、姑に入れ過ぎでは、と言ってみた事がある。その時はふんふん、と殊勝に聞いていた姑だったが、その後も同じペースで壊れるので、言っても無駄だと思い知った。今は好きなようにさせてあげよう、と思っているので何も言わない。
舅の防水仕様のジャンパーも、シーツもお構いなしでドンドン突っ込んでいれば、壊れるのも当たり前である。

何回も洗濯機を回すのが苦痛で面倒だ、と言うなら一度に沢山突っ込む気持ちはわかる。が、姑はその量で1日に5~6回も回すという。
聞いた時はビックリした。子供が運動部に入っていた頃ですら、我が家はせいぜい3回くらい、多くても滅多に4回回す事はなかった。一回あたりの量も満杯ではない。
姑は舅と二人暮しである。舅は殆ど在宅している。姑も同様である。何をそんなに何回も洗う必要があるのだろう。どれだけ考えても思い浮かばない。

先日などは市の水道局の人が来て、姑宅の水道の使用量が尋常ではない為、どこかで漏水しているかも知れないから調べさせてくれ、と言ったらしい。勿論漏水などなく、正規の使用のみのお値段だったのだが、その支払い額を聞いて驚いた。我が家の約4~5倍である。ありえない額だ。

ちょっと汗をかくと、すぐ脱いで洗濯機に放り込む。下着は勿論、パジャマ、シーツ、シャツ、タオル…ベランダはそんなに広くないから、家の中には常に何かが干してある状態である。
この勢いで洗うと洗い替えも沢山必要だろうと思うが、姑は意に介さない。洗って洗って洗いまくる。1日中洗濯している。

好きでやっているのか、と思いきや本人は悲壮感さえ漂わせて、
「もう洗濯ばっかりしなあかんから大変や」
と嘆く。傍目には趣味にしか見えないが、姑にとってはれっきとしたこなすべきミッションである。

ここまでではないが、私の母も洗濯好きである。着ている服まで、
「それ、今洗いたいから脱いでんか」
と容赦なくいうので、我が家では母の事を『追い剥ぎ』と呼んで恐れていた。
特に夏のカラッと晴れた日は要注意で、母の洗いたそうな物(二度寝したい休日の朝のパジャマなど)を着ている時は、鉢合わせしないようにするのが大変だった。

姑はもう80代である。何か趣味がある訳でもない。舅と二人では、たいした話題もない。買い物もたいしてしなくて済む。沢山居たご近所の仲良しさんも、亡くなったり、施設に入ったり、子供さんの所に引っ越したりで少なくなっている。
身体の自由は年々きかなくなる。耳は段々遠くなる。
洗濯に熱中する姑は、そっとしておいてあげた方が良いと言う結論になる。

夫は3泊4日の間の自分の洗濯物を、ウチで洗濯するようにこっそり持って帰ってきた。せめてもの思いやりである。

姑が今も元気で洗濯に勤しんでくれるのは、姑には悪いが私達にとっては静かな喜びである。
洗濯機の一台や二台、いいじゃないか。あ、それだけじゃあ済まないけど。