闇断捨離
ここのところ、夫の荷物をこっそり減らしていっている。いくら夫が片付けられない人だとはいえ、それはやってはいけないだろうと自分でも思う。が、やらないと我が家はいつまでもこの小汚い大量のブツに埋もれたままである。背に腹は代えられない。
次の引っ越しには会社からの援助は出ない筈だ。ということは経費削減の為、極力荷物を減らさねばならない。まだ数年先の話ではあるが、敵は着々と荷物を増やしつつあるので、この調子でいくと引っ越してきた時よりブツが増えてしまう。非常に危険だ。
相変わらず「ケ・セラ・セラ」を合言葉に、日々のほほんと生きている夫なので、わあわあ喚きたてても暖簾に腕押しである。こっそりこちらで粛々と進めるに限る。
夫の荷物の八割は書籍である。ジャンルは多岐に渡り、パソコン関連、仕事関連、心理学関連、バイク・車関連、音楽関連、カメラ関連、鉄道関連、飛行機関連、アマチュア無線関連、山岳関連・・・とクラクラくるくらいある。種類も様々で、文庫本からスケッチブック大の雑誌まで、大きさもバラバラだ。
「そのうち仕分けして、売れるものは売るから」
などと夫はナマヌルイことを言っているが、このセリフは二十年前にも、二年前にも聞いた。そして実行されたことは未だかつてない。つまりやらないに決まっている。
はい、こっそり無視しましょう。そうですか、そうですか、ありがとう、と言いつつ、腹の中で計画を練る。
段ボールを開ける。そもそも、引っ越し時にパッキングしたのも私だったなあ、と思い出す。
溜息をつきたくなるようなブツ、出る出る。
約三十年前のぴあマップ。これ持って今からどこ行くねん。絶対潰れてる店いっぱいあんで。道路とか今と違うやろ。下手したら電車も。
約二十五年前のるるぶ数冊。しかもなんで「京都」持ってんの?要らんやろ。
漫画ゴルゴ13。欲しがってたけど、持ってるやんか。これは私が読もう。私の部屋の本棚に移動。
子供が生まれる前に買ったであろう、名づけ辞典。あんた迷って結局決められへんかったよねえ。今度は孫に使うんか。
結婚式の引き出物を決める時に見たカタログ。しかも数冊。最初の引っ越しの時に捨ててないのが疑問。なんて分厚い。時代を感じる。
十年前のスイングジャーナル。念の為古本市場で価格を調べたら「¥0」。速攻で廃棄決定。
極めつけは「そういう」写真集。君も男の子だったんだねえ。随分お世話になったでしょう。代わりにお礼言うとくわ。もう要らんよねえ、こんな可愛い嫁さん居るんやから。あ、もしかして今からでも要る?てか、ちゃんと隠しとけ!
とブツブツ言いながら、仕分けしていく。
小一時間かかって、古紙回収に出すひとくくりが出来た。ここからも注意が必要だ。前回括っておいたらしっかり見つかって解かれ、ぐちゃぐちゃにされていた。六年前出版の『ブログの書き方』なんて本、要らんやろ!と思うのに、しっかり残してあった。ブログなんて書いとらへんやん。大体六年前って、古すぎて役に立たんやろ。
再び抜き取って、前述のブツと一緒に括る。括った後は私の部屋に搬入。本棚の陰に隠しておく。結構重い。
水曜日の古紙回収に出さねば。
「明日在宅するわ」
火曜日の晩、夫が言った。ヤバイ、ブツを出すのを見つかると取り上げられる。夫の仕事部屋から収集場所は丸見えだ。
水曜日、夫が部屋にこもると同時にこっそりブツを玄関に運ぶ。
「行ってきます~」
ととびきり良い声で言って、ブツを収集場所にダッシュで出しに行く。見上げるが、夫は気付いていない模様。よっしゃ、と思わず拳を握りしめる。
無事に収集されますように、と祈りつつ出勤する。
この辺りは古紙の回収時間が大変遅い。私が二時前に帰宅した時もまだブツはあった。夫が休憩がてら散歩なんて出たら大変だ。今日は無茶苦茶暑くて参るけれど、おかげで散歩には出まい、と思うと有難く思える。
早く収集来てくれ!と思っていたら、三十分ほどしてトラックの音がした。しばらくしてそうっと外に出て見ると、綺麗になくなっていた。
万歳!やっとすっきりした!古紙回収の方々、ありがとうございます!
これが二回目となる闇断捨離の顛末である。
段ボールは全部で約七十箱。今回開けたのは一箱。まだまだある。抜き足差し足で、ボチボチやっていくしかない。
この人の妻になった宿命だと思って諦めている。