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嫌いだけど好きなもの

昨日の夕飯は、夫のリクエストによりエビフライにした。
生憎近所のスーパーには小さなエビしかなかった。下準備にはちょっと手間がかかったが、なかなか美味しく頂くことが出来て、夫もご満悦だった。
大人二人だと滅多にしないメニューだが、たまにはこういうのも良いかな、と思った。

子供の頃はエビが大好きだった。
エビフライやら天ぷら、エビを使った炒め物なども好物で、母に
「今晩何食べたい?」
と訊かれれば、よくリクエストしていたものだった。
その度に母は
「エビかあ・・・」
とあまり嬉しそうな顔をしなかった。
どうしてか訊くと、
「イチイチ背わた取るのが面倒やし、あの独特の匂いが嫌いなんや。洗っても、いつまでも手に残る。ゴミも沢山出る」
と母は顔をしかめた。

油を通したエビの香りは、香ばしくて食欲をそそるものだ。
かっ〇えびせんがあんなに長い間、国民に広く愛されているのは、この香りを好きな人がとても多く居るからだろう。
しかし生のエビの匂いは、母が言うように決して良いものではない。
あの強い生臭さは恐らく、彼らが様々なものの沈んだ川の底に住み、人間から見れば『悪食』と思しき餌を好んで食むからなんだろう。
何度も料理酒や牛乳を使って洗いはするが、完全に匂いを取り切ることは難しいようだ。
殻を外し、背わたを取る作業も、チマチマと確かに面倒ではある。しかもおかずにするくらいの量を準備しようと思えば、必然的に匂いは手に染みつく。
調理後は勿論、石鹸で念入りにゴシゴシ洗ってアルコール消毒までするのだが、なんとなく匂いが残る気がする。
あまり快感とは言えないのは確かである。

子供の頃は
『お母さんは、私が好きなエビを料理するのが嫌いなんや』
とちょっとしょんぼり?し、母の機嫌を損ねるんじゃないか、とビクビクしながらリクエストしたこともあったが、大人になって調理する側になると、母の言っていたことがよくわかるようになった。
ウチの家族も私同様、エビが大好きである。だから今回のようにちょくちょくリクエストはある。
その度に私はつい、
「エビねえ・・・」
という反応をしてしまう。
流石に母のように露骨に、『匂いが嫌』とか『面倒』とまでは言わないが、『労力の割におかずにならん』という発言はした記憶が何回かある。
面倒くさがり主婦のDNAはちゃんと娘に引き継がれている。恐ろしいものだ。

それでも、やっぱり食べれば美味しい。
あのプリプリした独特の食感は、他の食材にはない。油との相性も良いし、ボイルしてサラダに入れたりすると、どんなドレッシングとも合う。
卵、胡麻、海苔、トマト、キャベツ、白菜、ニラ・・・一緒に食べる他の食材や調味料を選ばない。和風も中華風も洋風も、エビさえあればなんだか『決まる』気がする。
とても優秀な食材だと思う。

それでもやっぱり、スーパーでエビを『エイッ』と籠に入れるのは、ちょっと勇気が要る。
あの匂いと面倒な手間を引き受ける決心が、なかなかつかない。でも食べれば美味しいことは分かっている。自分も食べたい。
鮮魚コーナーのエビのパックを前にして、こういった葛藤が毎回、私の脳内を忙しく駆け巡る。
自分でも呆れるくらい、若い頃から全然変わらない。
私の調理技術が若い頃から一向に上達していない、ということなんだろう。

でも今回のように、
「美味しいなあ~」
という家族のえびす顔を見られると、やっぱり作って良かったなあ、とは思う。
エビはタウリンが多く含まれる。栄養ドリンクなどでもお馴染みだが、疲労から回復する効果などがある成分だ。
暑い夏の疲れも出てくる頃である。エビを食べて、疲労から回復するパワーをしっかりとチャージする為にも、今後も勇気を出して?エビを籠に入れることにしよう。