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今年も最高の

「おはよう」
「おはよう」
いつも通りの朝である。
ふん。いつも通りなのね。まあ良いけど。
ニュースを観ながら、素知らぬ顔でいつも通りの朝食を取る。
「大谷、凄いなあ」
「そやねえ」
ええ、確かにねえ。
いつも通りの会話ねえ。

夫の出発時刻。見送る為、後について玄関に行く。
「行ってきます」
「ちょっと、老眼鏡かけたまんまやで」
直前までスマホを見ていた夫、老眼鏡を外し忘れて出かけようとする。
私、笑いながら指摘。
「おっと、危ないとこやった」
夫、苦笑いして眼鏡を外し、ドアを開ける。
「ほな、行ってきます」
「気を付けて」
ドアがバタンと閉まる。
あーあ、ついに行っちゃったか。ま、ええわ。

今日は仕事は休み。
いつも通りに掃除、洗濯、買い物。
クラリネットの練習。
時折、LINEをチェック。
母、郷里の友人から連絡あり。
夫からはなし。
あ、そう。ええねんよ、別に。
今日という日はあと半分残ってるんやし。

見たかった過去作のドラマを堪能しているうちに、夕闇が迫ってくる。
追われるように洗濯物を取り入れ、夕飯に取り掛かかろう、と台所に向かう。
さあ、花束かケーキくらい、持って帰って来るか。だったら褒めたる。
はたまたすっかり失念したままか。だったら厳罰を与える。
どっちでもエエねんけど、失念されてたらチョイ寂しい。
一人で賭けしてる気分で帰りを待つ。

「ただいま」
六時頃、夫、帰宅。
「おかえり。早かったねえ。今日は早帰り?」
いつもより一時間ほど早い。もしかして?
「もう残業時間残ってへんから、これ以上無理やねん」
「あ、そうなんや」
わざわざと早く帰った訳ではないってことね。
エエような、悪いような。
と、夫が紙袋を差し出して、ニヤリとする。
「ホイ、これ。おめでとうさん」
あら、忘れてなかったのね。感心だこと。
って、思い出したの一体いつや?

「ありがとう。てっきり忘れてるんやと思ってたわ。ていうか、朝は絶対忘れてたよね?」
夫、ニヤニヤ笑いで誤魔化そうとする。
「さあな」
「いや、絶対忘れてたわ!帰ってきても忘れてたら、シバキ倒すつもりやってんからね」
「忘れるわけないやん」
「嘘や、絶対忘れてた!」
夫、また無言でニヤニヤする。ホンマに忘れてたようだ。
コンニャロ。

「『当店人気ナンバー3』ってヤツ、買うてきたで。メシの後、食べよう」
「わあい、ありがとう!どんなのか、見たい見たい。箱開ける!」
フルーツがてんこ盛りの美味しそうなタルトが二つ、鎮座ましましている。
こっちのツボを心得てますなあ。
「旨そうやろ」
「うん、うん!」
夫、またニヤニヤする。
花より団子。
くそう、やられた。

「美味しい~」
「ウマいなあ」
食後、二人でケーキを堪能する。
「いっぱい並んでた?」
「うん、まあまあ」
有名店だから、いつも長蛇の列。結構待ったに違いない。
去年も確か、同じ店で買って来てくれたっけ。
「ありがとう、ごちそうさま」
「うん」
後はいつもと同じ。
私は皿洗い、夫は居間で寝そべってタブレット見ながらうたた寝。
静かで平和な時間が過ぎていく。

「おやすみ」
「おやすみ」
「今日はありがとう。おいしかった」
「うん」
夫、嬉しそうにニヤリとする。
「明日は出勤な」
「オーケー。六時十五分起きな」
「うん」
「じゃ寝るね」
「うん」

こうやって書き出すと、つくづく言葉数の少ない会話。
年々、交わす言葉は減っているような気がする。
でもごく当たり前に、お互いの心の動きが分かるようになってきている。
最初は全く知らない者同士だったというのに、夫婦って不思議。
お互いに凭れ合うことなく、信じ合って、理解し感謝し合えるようになっていく。
いきなりは無理だけれど、長い時間をかけて、少しずつ、少しずつ。
後ろに行ったり、前に進んだりしながら。
毎日、しみじみと幸せな気分を味わえていることに感謝。
今年も最高の誕生日。