見出し画像

ばあちゃんの時間割表

姉から連絡があったのは、昨夜のことである。
明日ショートステイを終えて老健から帰ってくる姑の為に、『時間割表』を作っておいてやって欲しい、という依頼だった。
ショートステイに行く前の『時間割表』は姉が作成しておいてくれた。だが、買い物好きの姑の要望を入れてヘルパーさんの回数を増やしたため、ヘルパーさんの来てくれる曜日、時間が変更になってしまったのである。

姑だけではないと思うのだが、高齢者は急激な変化に弱いようだ。
何もないと姑は不安にかられ、毎日『今日は誰が来てくれるんや』『今日は何時に風呂の用意をしておいたら良いんや』とあちこち(姉、ケアマネさん、ウチ)に確認の電話を入れまくる為、これさえ見れば一発でその日の予定が分かる、と言うものを作っておくことに決めたのだった。

「私の作った通りでなくても、ミツルさんのエエように作って」
と姉は言ってくれたのであるが、子供の時間割表と違って作ったことがなく、一体どう作ったら姑の役に立つのか、見当もつかない。
しょうがなくGoogle大先生に『高齢者 予定表 忘れ防止』と検索をかけてみたら、市販のものから手作りまで、それはそれは沢山の『時間割表』が出てきて、ビックリしてしまった。

高齢者施設の凝った手作り品には、『この方たちあれだけ忙しいのに、よくこんなマメなことが出来る』とひたすら頭が下がる思いだった。見る人の立場に立って、物凄くよく考えて作っておられるのが画像から伝わってきた。
姑一人分の、それもたった一週間分の時間割で音を上げている自分が恥ずかしくなってしまった。

多くは薬の飲み忘れを防ぐ為の『お薬カレンダー』に似ている。これは姑宅にもあり、薬剤師さんが一回分ずつ薬をポケットに入れて行ってくれる仕組みになっている。
姑の場合、飲み忘れたら大変、という薬は一つもないので要らないようなものだが、『本人が』飲み忘れたら大変、と思っているので、その為に用意してもらっているのである。

日めくりにしようかとも思ったが、どうも事例を見ると認知症の進んだ方対象のようだ。姑は日付、曜日の感覚共に若干怪しいところはあるけれど、言えば納得するし、まだ『なんとかなっている』状態なので、ここまでは要らないかな、と思った。
やはり当初姉が作っていくれていた『一週間横書き形式』にするのが良さそうだと思い、百円ショップで『お絵描き帳』を買って来て、作り始めた。
明日行ってから作っても良いのだが、時間のあるうちにやっておくに越したことはないと判断したのである。

横軸に曜日を取り、縦はザックリと四分割にする。縦は敢えて時間を書かず、午前、昼、午後、夕方に分けてマス目を作る。
昼と夕方の配食は毎日。買い物とゴミ出しのヘルパーさんは週二回、どちらも午前中だ。風呂のヘルパーさんはやはり週二回、午後。ここに週一回の訪問診療(隔週で訪問看護)が月曜日に入る。

書きながら、まあ姑にはなかなか予定盛りだくさんな一週間かもなあ、と思う。確かに、いつ誰がなんのために来てくれるのか、がちゃんと分かっていなければ、不安になるなと言っても無理がある、というのも道理かも知れない。
しかし裏を返せば、それだけ頭がちゃんとしている、という喜ばしいことでもある。

老健での三ヶ月間のリハビリのおかげで、足元は随分しっかりした姑だ。傍目には要介護2なんて詐欺やろ、と思うくらい元気である。
しかし自分では『私はもうこれ以上ないくらい弱ってしまった』と感じているらしい。

心の方は、先々の予定は三つ以上言うと『覚えられない』と言ってパニックになるし、かといって『おばあちゃん、悪いようにはせんからこっちに任せといて』と言えば『みんなして私を蚊帳の外にする』とむくれる、と言った具合で、ちょっと厄介になりつつある。
こんな言い方をすると怒られそうだが、なかなか手の焼けるお譲さんである。

空いたスペースには緊急連絡先を書き込む。
ケアマネさん、夫、姉、私の携帯番号。
二十四時間対応の看護サービスは、姑の枕元に大きく書いたものが貼ってあるので大丈夫だ。
さあ、これで準備ヨシ。
明日は食料の買い出しと、舅の通院付き添いもある。多分クタクタになるだろうけど、しょうがない。
ガンバレ、ばあちゃんと私!もうひと頑張りだ!




いいなと思ったら応援しよう!

在間 ミツル
山崎豊子さんが目標です。資料の購入や、取材の為の移動費に使わせて頂きます。