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M君のこと

大学のサークルで一緒だったM君は、一風変わった子だった。
特徴的なのはその風貌で、一体何年浪人したんだ、と思えそうなくらい老け込んだ顔をしていた。失礼過ぎる表現だと思われるかも知れないが、新入生が
「あの方は何を教えてる先生ですか?」
と彼を指して真顔で訊いてきたことが一度ならずあったくらいだから、決して私の偏見ではなかった、ということだろう。

しかし彼自身は自分のそういった外見を気にする様子は全く見られず、むしろ
「また教授に間違われてしもうたわ」
と言って嬉しそうにガハハと笑っていた。
酷い猫背で、服装の趣味も我々の親世代の好みそうな昭和の遺物臭がプンプンするものだった。後に聞いた話では、お母様が彼の服をチョイスしていたらしい。きっとお母さん好みだったんだろう。
フォークギターでも弾ければ少しは様になったかも知れない彼は、そういう趣味とは全く無縁だった。バブルに浮足立つ当時の大学生の中で、彼はかなりの変わり者だったと言って良い。

彼は卒業後、希望通りに公務員になった。
公務員といっても全国を転々としなければならない仕事で、
「結婚はしたいとは思っているけれど、なかなか難しいかもです」
と毎年律儀にくれる年賀状に書いてあった。
友人と
「M君は超絶お堅いから、女の子寄ってこーへんよねえ」
と話したこともあった。
そういう自分もM君を恋愛の対象として見たことは、ただの一度もなかった、と断言できる。

ところが世の中は広い。
そんなM君の良さを分かってくれる女性が、彼の二度目の転勤先に居たのである。
結果、彼は同期の誰よりも早くに結婚した。
「ちょっと!女性陣の先越すって、どういうこと!」
送ったお祝いの礼電をくれた彼に、電話口で抗議すると
「へへへ、お先にィ」
と照れ臭そうに笑って話す彼は、とても幸せそうだった。
翌年には子供も生まれ、全てが順風満帆に見えた。きっと彼もそう感じていたことだろう。
だが、神様は彼にこれ以上ないほどの幸せを与えた代わりに、とんでもない試練を用意していた。

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