見出し画像

素直じゃないねえ

ここ数日間、ちょっと、いやかなりモヤモヤしている。
今週末、私は姑を再び老健施設に預ける為、関西を往復する。今回はショートステイで、期間は一週間の為、来週末にはもう一度同じことを繰り返さねばならない。
職場に頭を下げ、取り辛い有給休暇を同じ月に複数回取らせてもらい、新幹線には来たとこ勝負で飛び乗る。要するに傍から見ても、自分でも、大変だと思える状況に身を置くことになる。
これは別に良い。今まで夫の姉がしてきてくれたことを思えば、本当に僅かなことだ。

しかし、問題はここからだ。
私がわたわたしているであろう、この期間中に、我が夫は何をしているか。
旅行である。しかも一人旅である。
え、ちょっとそれって、あかんのとちゃうんかい?
百人いれば九十九人までがそう思うのではなかろうか。
少なくとも私はそう思っている。

しょうがない事情はある。
姑のショートステイが決まる数か月前から、夫は今回の旅に必要な予約を入れていた。入念に計画を作成し、とても楽しみにしていた。
だから今更、姑の為に旅行を取りやめろとは言わない。

夫は毎日、嬉々として旅行の準備をし、天気予報を見てはいつもの如く気を揉んでいる。
その姿を見る度、私はなんだか寂しくなってしまう。
この人、自分さえ楽しければ良いんだろうか。
この人の人生に於いて、私は雑用片付け係でしかないんだろうか。
期待しない、と決めてはいるものの、夫の心に寸分の後ろめたさもなさそうだと感じる度、きゅうっと胸が苦しくなるのをどうしても抑えられない。
怒りは湧いてこない。ただ、寂しい。

この人を選んで、今まで添い遂げているのは私である。
つまり今の状況を選んでいるのは私自身なのである。
それが腹立たしい。

今月私は計三回、関西を往復する。勿論全て姑の老健入退所がらみである。旅行なんかじゃない。先々週、一発目を済ませたばかりである。
夫は先月末、姑の退所カンファレンスと舅の通院付き添いの為に関西に行っている。その間、私は家に居て、普段通りの生活をしていた。
だから別に、夫が全てを私に押し付けてヌクヌクとしている訳ではない。
それでも、なんだかモヤモヤする。

夫は平気でこれから行く予定の旅行の計画を、楽しそうに語ってくれる。
その度に、どんな表情をして良いのか分からなくなり、私は曖昧に返事してその場を離れる。
一言でいい、
「先に決まってたから、行って来るけどごめんな。オカンのこと頼むわ」
とか、
「すまんな。お前ばっかりしんどい思いさせて」
とかいう、労りと謝罪の言葉があったなら、少しは報われるのかなあ、と思う。
言葉がけがあろうとなかろうと、しんどい思いをするのが私、という事実に変わりはない。だけどせめて言葉だけでも、と欲してしまう自分を止められない。

姑は電話をする度、しきりに『ゴメンね』を口にする。
しかし姑が謝る必要性はない。本来近くに住んで、姑の生活をサポートしてあげられれば良いのだけれど、それが出来ないからプロにお願いするのはこっちの勝手な都合である。
申し訳ないのはこっちなのだ。

夫を甘やかすことの出来る、度量の大きい妻を演じることは私には不可能である。
私が夫にかける愛情と思しきものと、同じものを返してくれとは言わない。
だけど、最低限のデリカシーくらいは持ちあわせて欲しい。
とうの昔に悟り、諦めてはいるものの、どうしても期待してしまう自分が居る。
いい歳をして、お前は阿呆か。いい加減すっぱり諦めろ。
そんな声が意地悪く頭に木霊する。

前々から、自分へのご褒美旅行と言って計画していた夫である。
仕事をサボるような人ではない。
気分良く行かせてあげたい。
けれど、そんなに楽しそうにすることないんとちゃうの?
かといって、コソコソ計画されるのも癪に障る。

おーい私、一体どうしたいんだい?
素直じゃないねえ。