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二枚目好み

祖母は晩年、弱ってきてからも“男前”を見つける?見出す?鋭い能力を持っていた。
もうかなり病気が進行して、目も背中も黄疸で黄色いというのに、病院に見舞いに行った私達孫に声をひそめて、
「今度の先生は男前や。かわいい顔してはる」
と言ってニコニコする。嬉しいらしかった。先生の顔より自分の体調はどうなのだろう、と気になったが全くそちらに関する言及はなかった。
確かにお目にかかると、『田中圭』風の若いかわいい先生であった。流石、しっかり見ている。
これが亡くなる一月前くらいの出来事なのだから、呆れてしまう。

母の2番目の姉であるおばが商売をしていた頃、祖母との外出先で偶然、出入りのメーカーの営業マンと会った。おばが祖母にちょっと待ってて、と言ってその場を離れ、二言三言会話してごめんごめんと言って戻ると、
「何処の子や?えらい可愛らしいな」
と言ったので、おばはびっくりしたらしい。
その営業マンは、『阿部寛』に似た背の高い男前で、おばの会社でも随分人気があったらしい。
祖母はかなり離れた所に居たのだが、しっかり見ていたようだ。

かく言う私が学生時代、祖母の家まで当時の彼氏に送ってもらった事があった。
彼はちょっと『中井貴一』に似た、背の高い子だった。玄関からかなり遠くで、私を迎えに出てきた祖母にちょっと頭を下げてすぐに立ち去ったのだが、祖母は目ざとく、
「可愛らしいな」
と満足そうであった。
自分の孫の彼氏として合格水準だ、と言わんばかりであった。思わず吹き出した。

祖母の夫である祖父は、昔は俳優の『長谷川一夫』に似ている、とよく言われたらしい。私は長谷川一夫という人を全然知らないが、祖母はお見合い写真を見て、コロリと一目惚れしたそうだ。
祖母は別に不細工ではないが、十人並みの器量であった。お世辞にも色白とは言えず、体躯も若い時からずっと超ぽっちゃりである。にもかかわらず、男前をゲット?出来たのは嬉しかったに違いない。
きっと密かに自慢の夫だったのだろう。

私の妹が、学歴は高いけど見た目は結構残念な男性と見合いをした時は、見合い写真を見るなり、
「やめとき。〇〇ちゃん(妹の名)可哀想やわ」
と平然とのたまったと聞いた。可哀想って…その人も気の毒であるし、第一失礼な言い種である。
手厳しいとしか言いようがない。しかも完全に自分の外見を棚に上げている。絶世の美女に言われるのならまだしも…
「どもならんクソババアやなあ」
見合い話を持ってきた父が、苦笑していたのを思い出す。
結局、その話は上手く行かなかった。妹は未だに独身である。
良かったのか、悪かったのか、よくわからない。

私が夫を紹介するまでに、祖母は亡くなった。祖母の葬儀には当時は彼氏だった夫も参列してくれた。

夫は残念ながら、どの俳優にも似ていない。しいて言えば、かつてサッカーの日本代表監督だった、フィリップ・トルシエ氏に似ている。

夫は祖母の眼鏡にかなっているだろうか。
今でも少し気がかりではある。