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飛び乗る

最近、新幹線に飛び乗る回数が増えている。関西にいる舅姑の用事で何度か往復しているからだが、いつもギリギリまで家の用事や仕事をしてから出発し、来たとこ勝負で乗るのでこういう余裕のないことになってしまっている。
帰る時もやっぱりギリギリまで少しでも多く用事を片付けようとするので、京都駅でのんびりと談笑しながらお土産を選んでいる人達を横目に見ながら、構内をひた走り新幹線に飛び乗ることになる。
ビジネスマンでもなく、芸能人風でもないただのおばさんが新幹線のホームを駄々走りする姿は滑稽だろうと思うが、しょうがない。

学生時代は片道二時間の距離を通学していたから時間はとても貴重で、やはり電車に飛び乗っていた。私の実家はド田舎にあり、電車を一本逃すと次は三十分後とか言う事が常識だったので、常に逆算して「今大阪駅をこれに乗らなければ、次は○○分しかない」と必死だった。当時は今みたいに賢いグーグルマップ大先生などがなかったから、いつも駅に置いてある小さな時刻表は必携で、常に定期入れに入れて持ち歩いていた。大阪環状線や阪急電車は時刻表を見なくてもすぐに来るから持っていなかったが、天王寺から我が家までのは学生時代から社会人になってもずっと持っていた。

電車に飛び乗るのは危ない行為である。それを実感する出来事に遭遇したことがある。
何十年も前の話だが、電車に乗っていたらドアが閉まって動き出した瞬間、なんだかざわざわした雰囲気になって悲鳴と怒号が聞こえた。何事かと思ったら、程なく電車が止まりドアが開いた。
私からは様子は見えなかったが乗客が話をしているのを聞くところによると、親子連れが発車間際に駆け込んできたのだが、親は間に合ったものの子供は首から先が車内に入ったところでドアが閉まってしまい、電車が動き出してしまったらしい。聞こえた悲鳴は母親のものだった。ホームで見ていた男性が「止めろ!」と車掌に叫んでいたのが怒号に聞こえたようだ。
人の首なんて挟んだまま電車って動けるものなんだ、とびっくりした記憶がある。
今みたいにホームの非常警報装置もホームドアも、あちこちになかった時代だ。よくまあ止まったものだと思う。

今もあるかどうか知らないが、昔阪急電車には通称「尻押し」のアルバイトがあった。発車時刻を時刻表通りにする為、満員電車に飛び乗って来る人を電車内に押し込む作業のバイトである。大学の先輩も何人かやっていた。
ラッシュアワーが勤務時間だから結構キツイが、時給は良いらしい。白い手袋に駅員の帽子と阪急電車カラーのジャンパーを着ている先輩を駅で見かけて「先輩!」と声をかけると、照れ臭そうに会釈してくれることもありなんだか面白かった。
尻押ししていて困るのは、若い女性が飛び乗ってきた時だそうだ。本当に「尻」を押すわけにもいかず、かといって「胸」を押すわけにもいかず、「腹」「肩」も色々問題がある、と言うのでとても難儀らしい。とある先輩は押そうとしたらその女性に睨まれたそうだ。でも仕事なので「すいません!」と言って目をつぶり押し込んだらしい。
「おーええのう」
とからかわれたその先輩が、
「役得なんかとちゃうで、普通にイヤやで」
と拗ねたので、みんなで大爆笑した覚えがある。

母も自分の母親と父親が年老いた頃には、何度も京都まで往復して世話をしていた。その頃には今の私と同じように電車に飛び乗っていたらしい。
今は私が母と同じように新幹線に飛び乗り、母が足繁く通った祖父母の家に泊まっている。姑宅から近く、便利だ。
この前もお礼がてら母に電話をしたら、
「あんたがそうやって使うてくれたら、空でおばあちゃんとおじいちゃんが喜んでるわ」
と笑っていた。
亡き祖父母と両親に感謝しつつ、「順送り」という言葉を実感している。