見出し画像

富豪

今年の寒さは殊に厳しい。日当たりの悪い我が家はエアコンを一日中付けていないと寒くて寒くてたまらない。ファンヒーターは即効性があるが空気が汚れるし、不動産屋さんから火災の危険がある為灯油は使用しないで下さい、と釘を刺されているから使っていない。
なので、こういう寒い日は時折ぐはーっとため息をつくエアコンのみにお世話になることになる。足元の寒さが悩ましい。
私は冷え性でトイレが近い。『ミルク飲み人形』と言われるくらいである。最近は少し回数が減ったが、若い頃からずっと膀胱炎にも悩まされている。家の中では温かいオーバースカートを常に身に着けている。腹巻、レギンス、カイロは常時必携である。
だから本当はファンヒーターの強烈な温かさが恋しい。

私もだが、夫も酷い寒がりである。特に夜寝る時は何枚毛布や布団を重ねても、寒い寒いと言って背を丸めている。掛け布団が身体で持ち上げられると敷布団から離れてしまい、そこから冷気が入り込む、と言って嫌がる。切れ目なく毛布をかぶっているのだが、寒くて眠れないという。私だと掛けている布団の重量で眠れないかも、と思ってしまうくらい色んなものを掛けまくっている。
家の中で寝袋という訳にも行かず、何か良いものはないかと探していたら『着る毛布』なるものがあるというのを数年前に発見した。当時はどんなに工夫しても布団から飛び出てしまう子供用に購入したのだが、「俺も」と言うので夫用にも購入した。
使い倒して薄くなってきたので引っ越しを期に廃棄したが、こちらの家が寒いので昨冬新調した。現在、夫はこれが大のお気に入りである。
大人の男性用のサイズだからかなり長い。深いグリーンのベロア調の生地でヘチマ襟になっており、共布で腰ひもが付いている。ちょっと見高級なガウンのようだ。お金持ちの老人が暖炉の前でロッキングチェアに揺られながら着ているイメージがある。なので私達夫婦はこれを『富豪』と呼んでいる。

この『富豪』夫が言うには大変温かいそうで、在宅勤務の日など一日中これを着ている。夫の仕事部屋は二階なので、朝食を済ませると仕事道具を持って居間から二階へ上がっていくのだが、途中の廊下が寒いからと言って『富豪』を着たまま階段を上がっていく。
が、裾が長いので踏んづけそうになる。非常に危ない。ウチの階段は狭い上に螺旋状になっており、おまけにちょっと急勾配である。仕事道具の他にも加湿器、サーキュレーター、座布団などを持って、危なっかしく二階に昇っていく『富豪』をいつもハラハラしながら見送っている。こんな危ないことをしなくても、二階に持って上がってから着ればいいと思うのだが、廊下の寒さがどうにも我慢出来ないらしい。
荷物を分けて持って行けばいいとも思うが、面倒なので一度に済ませたいそうだ。しょうがないので休みの日などは時々手伝う羽目になる。私が出勤する日は時間的に無理なので、時間に余裕がある時は先に運んでおいてあげたりもするが、大体は「気を付けて昇ってよ!」と言いおいて出かけることになる。

かなり見ごたえのある立派なガウン?なのに、猫背の夫が着ると服が夫を飲み込んでしまい、ちょっとアンバランスな感じになってしまう。似合っていないとは言わないが、着こなせていないとは思う。
私がいくら笑おうが、夫は蛙の面に水である。温かかったら見てくれなんてどうでもええやんけ、と開き直っている。まあ誰かに見せるものではないから良いと言えば良い。
寝る時も起きている時もいつも着ているので、夫は嫌がるが洗濯はマメにしたい。夫が出勤で且つ私が休みの日が洗濯のチャンスデーだが、天気が良くないと乾ききらず、夫から苦情を言われるので要注意である。

今日も今から出勤。天気は午後から雨か雪。『富豪』は洗えそうもない。
早く温かくなあれ。