私と帽子の相性
どうも昔から帽子というものが似合わなくて困る。
小学生の時、母が妹と私に同じ色の帽子を買ってくれた。
妹のはハットタイプ。短い鍔に金色の糸で縁取りをしたものだった。
私のはキャスケット帽とでもいうのか、頭のてっぺんが丸く膨らんでいて、前にだけ短い鍔があるタイプだった。
色はどちらも同じ、えんじ色。母の好きな色である。素材は別珍だったから、冬用だったと思う。
私達二人がこれを被っていると、母は物凄く喜んで、よく並んで写真を撮らされた。だからこの帽子を被っている我々姉妹の写真は、実家のアルバムにいっぱいある。
しかし私は子供心に、どうして母は二人に同じデザインの帽子を選ばなかったのかな、という小さな疑問をずっと持っていた。
日頃の母は『お揃い』を着せることが大好きだったし、自分で作成する時も同じデザインのものを作っていた。なのに、何故わざわざ違うデザインの帽子を選んで被らせたのだろう。不思議で仕方なかった。
ある時、母に訊いてみると、こんな答えが返ってきた。
「あの子(妹)はぐるっと鍔のある、可愛らしいタイプが似合う。あんたは帽子というものがまるで似合わない。ハットタイプもキャップタイプもダメだ。だからそれ以外で、少しでも女の子らしい感じのするデザインを探したんよ」
少なからずショックを受けた。
別に帽子が似合わなくても死ぬことはないから良いのだが、親に面と向かって
「あんたには帽子は似合わない」
と言われれば、あまり嬉しい心持はしなかった。
この発言のトラウマといえば大袈裟なのかもしれないが、その後私は帽子を被るシーンをなんとなく避けてきた。夏の日差しを遮るのは専ら日傘だし、防寒の為に帽子を被るなんて考えたこともなかった。
若い頃には何度か挑戦してみたことはあった。
夏にはカンカン帽みたいな可愛らしいデザインの帽子を愛用していたこともあったし、お洒落と防寒を兼ねてニットキャップを被っていた時期もある。
でも鏡に映る、帽子を被った自分の姿は何となくパッとしないように思え、いつも次第に被らなくなってしまったのだった。
もうどちらの帽子もとうの昔に処分してしまった。
出産してから、なんの具合か急に帽子を買う気になって、一つ買った。買った店も値段も忘れてしまったが、私の手元に現在も残っている帽子はこれだけだ。デニム地のキャスケット帽である。
単にカワイイと感じたから選んだのだが、私がそれを被ると夫は首を傾げて
「お前、それ似合わんなあ」
と惨いことをサラッと言った。
それ以来、外出の時に被ってみようかと手に取ることはあっても、結局被っていない。もう何十年被っていないだろう。
お陰で殆ど新品状態である。
でも気に入って買ったので、手放す気にはなれない。
正に『箪笥の肥やし』である。
私は日頃帽子売り場で働いているので、様々な方が帽子を買いに来られる。
中には『これから被って行きますから、値札を取って下さい』と仰る方も多い。男女、年齢は問わない。
言われるままに値札を外してお渡しすると、皆さんなんのためらいもなく、パッと被られる。似合うとか似合わないとか気にしておられる方は見たことがない。
皆さんちょっとウキウキした感じに見えるのは、私の思い過ごしなんだろうか。
いつもちょっと羨ましい思いで、お見送りしている。
母ばかりか夫も言うくらいだから、きっと私は帽子が似合わない種類の人間なのだと思う。
輪郭が原因なのだろうか?
妹はバランスの良い卵型の顔である。あまり帽子を被っているのは見たことがないが、恐らくなんでも似合うだろう。
私はホームベース型の顔である。この両頬に張っているエラが、帽子を似合わなくさせているのだろうか。
滅多に帽子を被りたいとは思わないのだけれど、この季節になるとちょっと被ってみたくなる時はある。
帽子売り場で気に入ったデザインのものを、ちょっと手に取ってみることもある。
でも私、似合わないんだっけ・・・。
試しに被って鏡を見ても、似合っているのかいないのか、自分でも今一つ分からない。結局面倒くさくなって、もういいや、なくても困らないし、といった具合で買うのを止めてしまう。
だから私にとって帽子選びはとても難しい。
こんな風に何も気にせず、ぱっと気に入った帽子を被れるようになりたいものだ、と思いながら、去っていくお客様をお見送りしている。