柳に雪折れなし
『この人には到底かなわないなあ、凄いなあ』というくらい、人間的な魅力があり、芯のしっかりした人に出会う事は沢山ある。
私にとってUさんはそういう人の一人である。
営業の先輩で、私達新入社員の研修時には全国150名あまりの女性営業マンの中から人事部に選ばれて、4人しかいない講師を勤めていた。
Uさんと同じ店の配属に決まった時には、なんとも言えない安心感を覚えた。
一見とても大人しく、大きな声も出せないような感じがする人であるが、Uさんはお客様から絶大な信頼を寄せられていた。
「この人、カッチリしたはんねんで。約束した事絶対守ってくれるねん。きっとそやから、あんたら新人さんの先生に選ばれはったんやわ」
一緒にUさんのお得意先を訪問した時、あるお客様がUさんを評して私に言った言葉である。
営業マンというのは、基本的に人好きがし、信頼される程成績が伸びると思う。Uさんは営業成績も優秀であった。
物凄い粘り腰でもある。
お客様にボロッカスに商品を断られても、粘りに粘る。『駄目だ』と諦めるのがとても遅い。お客様との根比べになる。
どうしても駄目でも、にこやかに
「またよろしくお願いします~」
と頭を下げる。
こうなるとお客様の中には罪悪感を覚える方も出てくる。
「この前、あんたの頼み事聞いてあげへんかったさかい」
と言ってわざわざ来店されて、他の商品を契約下さったりする。
結果、成績が伸びるのだ。
Uさんが営業マンとして変わっている点は、「のんびりゆっくり」派である事だと思う。
何日までにいくら、と追い込まれる事が多い営業の仕事は、兎角あくせくして、ややもすればお客様の立場を顧みる事を忘れがちである。
が、Uさんはガンとしてお客様優先を貫いていた。
役職者からはしばしば、
「もっと融通をきかせろ」
と数字優先にするよう促されたりもしていたが、黙って自らの流儀を通していた。
意固地だ、とそんなUさんの姿勢を疎ましく思う役職者も多かった。
あれだけ成績をあげているし、性格に問題も全然ないのにどうしてかな、と同期入社の友人達とよく話していた。
女性が仕事出来る事に対する嫉妬かなとか、何があってもマイペースなのが嫌なんじゃないかな、とか言う意見は出たが、結局私達にはわからなかった。
まだ若い内にお母様を病気で亡くされ、看病、葬儀、お母様亡き後の家事、を仕事をしながら、自分が家族の中心になってやって来られたと聞いた。
それでもいつもUさんの笑顔が消える事はなかった。
弟さんに家庭が出来ても、お父様が商売を畳まれても、大変だと愚痴をこぼしているのを聞いた事はなかった。
Uさんの事を私から聞いた母が、
「柳に雪折れなし、っていうやんな」
と言ったのを思い出す。
柳は雪が積もっても、枝がしなるので折れない。転じて柔軟な物は硬い物よりよく持ちこたえる、ということらしい。
全然強く見えないのに、いつもゆっくりマイペースながら、なんと言われても自分のやり方を貫き、結果お客様に愛される。
Uさんは柳である。
時にはポッキリ折れてしまいたい時もあったのでは、と思うが、私はそんなUさんを見た事は一度もなかった。
数年前に定年を迎えたUさん。出向してのんびり仕事してます、と年賀状には相変わらずの達筆で書いてあった。
そこもいつか退職されたら、Uさんの大好きなお花を持って、『お疲れ様でした』を言いに行きたいと思っている。