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早朝の「タン!」

うちの近所にタイワンリスらしき生き物が出没することは以前述べた。
どうも同じ個体がこの辺を根城にしているらしく、時間を問わずしょっちゅう見かける。最近は鉢合わせても「なんだ、こいつか」とばかりに、ゆうゆうと去っていくことが多い。こちらが危害を加えないことをよく知っているものと見える。

うちのベランダは北向きが一か所、南向きが一か所の合計二か所。北向きの方が広く使い勝手が良いので、日当たりはあまり良くないがこちらをメインに使用している。
二人暮らしには広すぎるベランダで、毛布などの大物洗いをする時を除いては半分しか使用していない。
南側のベランダは日当たりは良いのだが、隣のマンションから手を伸ばすと私のブラジャーくらいなら持っていけそうな近さなので、うっかり洗濯物を干せない。なので専ら使用しない自転車のタイヤの空気入れとか、ホースリールなんかを置いて、物置状態になっている。

この南向きのベランダに、最近「落とし物」がある。
木の実を向いた皮や裸になった実。かじりかけのように見えることもある。夕方雨戸を閉めるようになってから、頻度が増えた。
近くには大きな分譲マンションがあり、敷地内に小さいながら森のような茂みがいくつかある。実のなる木も生えている。どうもその辺から持ってくるらしい。
大抵翌日にはすっかりなくなっているので、忘れているわけではないようだ。
ベランダは大人の腰くらいまでの高さの覆いがある。外敵から見えづらく、日当たりがよく、食事をしたり食べ物を隠しておくのにもってこいの場所なのだろうか。
捨てては可哀想なので、気づかぬふりをして放っておくことにしている。

最近寄る年波のせいか、夜遅くまで起きているのが苦痛になってきたので、時間を有効に使う為「早寝早起き」を実践している。これがなかなか快適で、私には合っている。
早朝はまだ周囲は暗く、なんの物音もしないから集中しやすい。
が、最近時折、
「タン!」
とウチのベランダに何かが飛び降りたような音が聞こえることがある。大体いつも4時半頃である。静寂を破る乾いた物音に、最初は何事かと驚いて慌ててベランダを見にいったものだ。

リスは身体が小さいし、身軽なはず。しかしこのリスはデカい。イタチと間違えそうなくらいである。おまけに南側のベランダの床は薄い。
隣のマンションの屋根から飛び降りると、丁度ウチのベランダに着地することができるようだが、結構な高さがある。重いリスが高いところから薄い床にジャンプして着地すれば、ああいう大きな音がしてもしょうがない。
大きな音をさせるのは、外敵に自分の居場所を知らせるようなもので危ないのでは、と思うがその辺あのリスはどう考えているのだろう。
危険を冒してでも行きたいほど、ウチのベランダは魅力的なのだろうか。

汚いものを落とされては困るので、毎日雨戸を閉める前に一応点検しているが、フンなどは落ちていない。そういうことをされたら、可哀想だけどそれなりの対策をしないといけないと思っているが、今のところ大丈夫なようだ。
彼(か彼女)も生きるために必死なのだろう。
もう少し可愛らしい顔のリスだったら嬉しいが、見るからにオッサン顔なのでつまらない気がする。人間だけでなく、動物も顔の良い生き物は得だなあと思う。

早朝の「タン!」が聞こえない日は、あれ、今日は来ないのかな、なんて思ってしまう。ああ、折角集中できる環境を整えたのに、彼のおかげで気が散ってしまうじゃないか!
防音のためにぼろ毛布でも敷いておこうか。でもそんなことをしたら、益々居心地よくなって居座ってしまうかもしれない。
食べさしの木の実ぐらいは良いが、子リスが勢ぞろいなんてしたら手が付けられなくなる。すごく可愛いだろうけど。

毎早朝の訪問者を待っているような、待っていないような、中途半端な気分の今日この頃である。

※画像のリスはタイワンリスではありません。